高卒には「職業選択の自由」がない? 大卒より高卒の採用が難しい理由相馬留美の「今そこにある商機」(4/6 ページ)

» 2021年08月21日 08時00分 公開
[相馬留美ITmedia]

30年前と今、高卒者に何も変化がなかった衝撃

 佐々木さんも高卒で社会に出た一人だ。就職時に教師から紹介にされた会社に不服があったが、「素行が悪いからここしか行けない」と宣告されたのだ。

 佐々木さんは卒業後にその会社に入ったが、すぐに辞めてしまい、そこから流転の生活を送る。長距離トラックの運転手に転身したものの、その過酷な働き方に疑問を持ち、声をかけてくれた中小企業の社長のもとに転職。その会社は社長の放漫経営がたたって資金繰りが綱渡りのブラック企業だったが、佐々木さんの営業能力を見抜き、学歴ではなく実力を評価して役員にまで引き上げてくれた。とはいえ、結局倒産してしまう。

 手痛い経験の反動から、人を大事にする企業を作りたいと一念発起して起業し、そこから中小企業の社長として増収増益を続けることになった。まさに「成り上がり」人生だ。

 ただ、自身を「コンプレックスの塊」と話す佐々木さんは、会社の経営が安定しているにもかかわらず、高卒時の苦い経験を忘れられずにいた。

 つらい記憶が呼び戻されたのは、2014年に採用や教育を行う人材会社として立ち上げた子会社(当時)・ジンジブの社長に、「大卒ではなく高卒を採用しないのか?」と尋ねたときだった。当時佐々木さんの会社は大卒2万人のエントリーがあったにもかかわらず、高卒の採用はやっていなかったからだ。

 社長はこう返事した。

 「高卒は採れません。一人一社、学校から推薦された企業にしか行けないんですよ」

 佐々木さんが就職したときから30年の月日が流れている。それにもかかわらず、高卒採用の状況は全く同じだったのだ。

「それはおかしい。できないというなら、自由に就職できるように、僕たちがやらなあかんやろ」

 ジンジブの社長はなかなか首を縦に振らなかった。なにせ、”ゼロマーケット“である。市場性を考えたら踏み込めない。

 「大卒マーケットはレッドオーシャン。ベンチャーや中小企業に人を送らないといけないのだから、これからの社会は絶対に学歴は関係なくなる。市場なんてなくていい。作れるから」――佐々木さんの6回目の説得で、ようやく社長は折れた。

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