高卒には「職業選択の自由」がない? 大卒より高卒の採用が難しい理由相馬留美の「今そこにある商機」(6/6 ページ)

» 2021年08月21日 08時00分 公開
[相馬留美ITmedia]
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「就職のために大学に行く」意義を問う

 こうした活動をしている間に、佐々木さんのプライベートでも事件が起こった。高卒で就職を予定していた息子さんが、「『お前はここへ行け』と先生に言われたけど、まったく行きたくない」と連絡してきたという。息子さんは「素行が悪かった」ようで、本人の意に染まぬ企業を学校から提示されたのだ。行きたくないと言っても無駄だったようだ。

 素行が悪いとはいえ、子どもの将来の可能性は信じたい。学校にも「なぜここしかないんですか」と直接問いただしたが、「もうこれは決まってるんですよね。他は枠がない」とけんもほろろだった。

「就職のために大学に行く」意義は(提供:ゲッティイメージズ)

 マーケットのなかった高卒採用の分野だが、ジョブドラフトを利用する新規企業は毎月100件近くあり、今年度は黒字化が見えてきた。

 当初、ジョブドラフトは情報提供だけだったが、合同説明会の開催やジョブドラフトNaviを通じた求人票のダウンロード、職場見学エントリー、対面またはLINEを通じた高校生からの個別相談も受け付けるなど、高校生の就活をサポートする。

 「先生は求人票をあまり見ていない。先生経由で高卒採用の仕組みを変えるのは難しい。学校の先生に選んでもらえるように菓子折りをもってあいさつに行くような企業は少なくて、そんなことをするくらいならお金をかけて大卒を取りに行くことが現実なんです。そういう背景もあって、ウチに注目する企業が増えているのだと思います」(佐々木さん)

 佐々木さんがその先に見据えるのは、高卒人材のネクストマーケットだ。リクナビにも若手転職者向けの「リクナビネクスト」があるように、高校卒業から大学中退者を含めた転職希望者が存在する。先述のとおり、アンマッチによる離職率も高い。彼らに向けた転職支援を始めるという。

 高校を卒業して新卒として就職する生徒の多くは「自立したい」という理由を挙げるが、家庭の経済的要因も大きく影響していると佐々木さんは言う。だが、高卒者の職業の選択肢が広がっていけば、大学進学を選ばない高校生も出てくるに違いない。

 「今は、大学に行けば就職がある程度選べるようになるので、やりたい仕事を選ぶために500万円を使って大学を出る人もいます。そのうち半分は奨学金を借りるわけです。でもそこにお金を使うなら、早く社会に出て勉強をする選択肢もある。社会に出てから大学に通う人もいる。

 大学に行くことに反対しているのではなく、高卒での自由な就職という道が生まれることで、大学に行く意味をしっかりと考えられるようになるのではないでしょうか」

相馬留美(そうま・るみ)

経済誌記者、ベンチャー企業の上場準備室を経てフリーランスに。現在はビジネスメディアを中心に産業・企業に関する記事を執筆する一方で、フリーランスの活躍を後押しする活動に従事している。


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