本当に「前例はない」のか ニップンが“決算延期”に陥った大規模攻撃の教訓3〜4年前を思い出す(1/2 ページ)

» 2021年08月24日 08時00分 公開
[高橋睦美ITmedia]

 先日、製粉大手のニップンが、サイバー攻撃を受けて発生したシステム障害の詳細を明らかにした。ニップン本体のファイルサーバの他、グループ企業も利用している財務会計システム、販売管理システムなどが被害に遭い、多数のファイルが暗号化され、起動できなくなった。オンラインバックアップも被害に遭い、サーバの早期復旧が困難となった結果、2021年4〜6月期の決算報告書の提出を、約3カ月延期する事態に陥った。

photo サイバー攻撃を受けたシステムでは、大部分のファイルが暗号化された。早期の復旧は難しく、決算発表を延期した=ニップンの資料より

 公表された資料では、サイバー攻撃がどのような経路で行われたか、またファイルの暗号化はいわゆるランサムウェアによるものか、それとも何らかの手段で遠隔操作されたのかなど、詳しい手法は明らかにされていない。ただ、影響範囲の大きさからか、調査や対応支援に当たった外部専門家は「これほど広範囲に影響を及ぼす事案は例がなく」と表現している。

 だが見方によっては、実際には前例はあったともいえるのではないだろうか。というのもこの数年、サイバー攻撃を受けてメールサーバが停止したり、工場やプラントの操業が停止に追い込まれたりと、自社やパートナー企業、顧客、ひいては社会に大きな影響を与えるセキュリティ事故はたびたび発生してきたからだ。

 最近でいうと、ランサムウェアによる被害が典型例だろう。

 セキュリティ関連のニュースに興味を持っている人ならば、ランサムウェアという言葉は、おそらく耳にしたことがあるだろう。昨年ごろから目立つのは、国内外の企業を対象に攻撃を仕掛け、社内に保存されていた個人情報や機密情報を盗み出し、「ネット上でこれらの情報を公開されたくなければ引き換えに金銭をよこせ」と要求するランサムウェアだ。

 もう少しさかのぼってみよう。3〜4年前に流行したのは、Windowsの脆弱(ぜいじゃく)性を突いて感染を広げる「WannaCry」と呼ばれるランサムウェアだ。感染すると周辺の端末やサーバのデータを暗号化し、システムが立ち上がらず、ファイルも見られないような状態にしてしまい、「もしファイルを元に戻してほしければ金銭をよこせ」と要求するものだ。

photo ランサムウェア「WannaCry」に感染した画面の例=IPAのWebサイトより

 このときも、海外のさまざまな組織・企業はもちろん、日本企業も被害に遭った。被害を公表した中には、メールシステムに障害が生じて顧客とのコミュニケーションに支障が生じたり、生産に影響が出たりしたケースが含まれており、バックアップデータを基にシステムを復旧するのに多くの労力が費やされた。

 その後もランサムウェアは継続的に、それもややターゲットを絞ってカスタマイズされて、企業を襲い続けている。2020年前半にもランサムウェアの被害に遭った日本企業が、数日間工場の操業を停止したケースが報じられた。海外では米石油パイプライン大手のColonial Pipelineがランサムウェアの被害に遭い、全てのパイプラインの操業を一時停止し、社会的な混乱を招いたケースが報じられている。

 今回のニップンのサイバー攻撃は、ランサムウェアによるものとは明言されていないが、生じた影響という意味では過去にも似たようなケースは多々発生している。対象がメールか、工場を制御する生産制御システムか、あるいは財務会計・販売管理システムかの違いはあるが、本質的には「事業を動かすシステムが何らかの原因によって動かなくなり、甚大な影響が生じてしまった」ことに変わりはない。

どうすればいいのか 答えはシンプル

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