カプセルを大胆リノベーション! カプセルホテルの“安心お宿”がコロナ禍で打ち出す“秘策”瀧澤信秋「ホテルの深層」(2/5 ページ)

» 2021年08月26日 06時00分 公開
[瀧澤信秋ITmedia]

3.11の試練を経て

 1号店開業直後に襲った東日本大震災のときを振り返る取材は印象的だった。安心お宿にとっても手探りで開業にこぎつけた矢先に容赦なく襲った試練でもあった。帰宅困難者が大挙として押し寄せた経験から、施設のスタッフは、カプセルホテルは天災時に“社会インフラ”を担う身近でハードルの低い宿泊施設であり、スピーディーかつ弾力的にその役割を担うことが努めでもあることを渦中の現場で意識したという。

 そんな思いをスタッフ同士で共有したことは、カプセルホテルに求められる社会的な意義を問い直し、高付加価値型としての存在感をさらに高める契機にもなった。常に「“公益資本主義”は宿泊業の基本であること」を意識してきたというが、あらためてそれを認識した出来事だったという。熱烈なファンが多いことでも知られる安心お宿のスタンスを示すエピソードの一つだ。

徹底した無料サービス&オールインクルーシブ

 そもそも安心お宿は、進化型カプセルホテルの基本であるデザイン性の高さに加え、数百種類もの圧倒的な無料サービスの提供で利用者の支持を得てきた。無料サービスの一端を見てみても、アメニティー、高級マッサージチェア、漫画、雑誌、朝食にみそ汁、フリードリンクなど枚挙に暇がない。

 大浴場やサウナといったカプセルホテル定番サービスを含めても、極端にいえば無料サービスで生活できてしまうほどの多彩さだ。当初は、男性専用のカプセルホテルとして拡大してきたが、旅行スタイルの多様化や女性の働き方の変化など、女性需要の高まりも鑑み、女性専用エリアを設けた施設も増やしていった。

カプセルホテル 女子会ルームなるものまで飛び出した(筆者撮影)

 豊富な女性向けアメニティーや美顔器など、女性向け無料サービスを見ても徹底した女性目線の追求がなされていることも分かる。

 今では散見するようになったが、スマートフォンやタブレットを活用し、宿帳記入なしでチェックインをできるようにするなど、“シームレスなスマートホテル”としても業界をけん引してきた。安心お宿をはじめとした進化型の拡大により、伝統的な“安いけどチープなイメージの業態”から、高いクオリティーが担保された宿泊業態という新たなフェーズへ突入していったことが指摘できる。

カプセルホテル プライベートスペースがより確保されたタイプも流行った(筆者撮影)

 その半面、現場には「新しいスタイルのカプセルホテルとして、一定以上の料金設定を堅持した上で、顧客に支持し続けてもらうには、何をしたらよいのか」という問いが常ににあったという。自分たちのやっていることは世に受け入れられるだろうか? といったある種の“危機感”とも換言できる。

 19年の筆者に取材に対し、サンザ安心お宿事業部 部長(当時)の松田一宏氏は「率直にいって当初の想定よりも伸び率は鈍化してきている」と、危機感を吐露していた。まだインバウンド活況がセンセーショナルなニュースになっていた頃である。

 常に問い続け危機感を抱いてきたブランドゆえ、以前、本連載で詳述したコロナ禍前からの供給過多というフェーズ移行に敏感だったのは当然のことだったのだろう。

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