アフガニスタンで日本車が注目されている、なぜ?世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2021年08月26日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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メーカー側も動く

 テロリスト側が自社のクルマを使用していることに対し、メーカー側も何もしていないわけではない。それどころか、例えば、トヨタは積極的にそのテロリストに好まれているイメージを払拭(ふっしょく)しようとしている。

 21年7月、インドの自動車専門サイトでこんなニュースが報じられている。「トヨタが新型のランドクルーザーの購入者と厳しい契約書を交わすことで、テロとの戦いを行なっている」

 記事によれば、トヨタは6月にランドクルーザーの新型モデルを発表。8月に発売が始まった日本では、購入者と比較的厳しい契約を交わしていると指摘している。

 日本人購入者がTwitterに投稿した「誓約書」の画像も、記事には貼り付けられている。それによれば、誓約書には「この度のお取引は『輸出』及び『転売目的』での購入ではないことを、お客様にご確認いただいております」と書かれている。さらに、「外為法に抵触するリスク、輸出先によってはグローバルでの安全をおびやかす大きな問題につながる恐れがあるため」とも説明されている。

 つまり、国外に輸出されて、テロ組織などの手に渡らないよう確認していると考えられる。確かにテロリストにわたる可能性に気が付いていながら輸出を放置するのは、テロリストに協力しないと定められている国際的な規範にもひっかかる可能性がある。

 ただそれ以上に、テロに自動車が使われることによるイメージダウンや倫理的な問題などを意識した動きだと言っていいだろう。しかもこの誓約書には、以下のような確認事項も書かれている。

  • 私は、注文した車両を輸出及び、転売(最終需要者が未確定)はいたしません。
  • 私が前(1)号(筆者注:上記文のこと)を違えた場合は、その発覚後貴社から今後の取引を停止させられる可能性がある事を承知します。

 インドの自動車専門サイトでも紹介されていたように、かなり厳しい誓約をしなければいけないのである。もちろん、テロリスト側はあの手この手で、日本車を手に入れようとするだろう。だからといってそれを放置できないので、結局、販売時に厳しくルールを購入者に合意してもらうしかないということだ。もっとも、アフガニスタンでタリバン政権が樹立されれば、またトヨタ側の見解も変わるかもしれない。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。

Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル


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