業界のルールはPayPayが決める 黒字化への道筋(後編)(1/3 ページ)

» 2021年09月02日 08時20分 公開

 前編を読んで、コード決済側から見たPayPayとキャッシュレス決済全体から見たPayPayの印象が異なっていると感じる方がいるかもしれない。これが日本におけるコード決済の現状なのだが、一方この分野でPayPayが圧倒的シェアを誇っていることは確かだ。つまり、同じ土俵で競合が勝負する限り、PayPayの施策に毎回引っ張られるということを意味しており、この分野におけるルールメーカーがPayPayになったということは揺るぎない事実だ。

 直近の影響としては、PayPayの今回の決定は「コード決済手数料」に関するルールメーカーとして機能する。具体的には、MPM方式におけるPayPayマイストアの「ライトプラン」契約時の手数料1.60%と、未契約時の1.98%という水準だ。

 PayPay副社長COOの馬場一氏によれば、「手数料を引き上げたときの離脱率とコストを加味して算出した数字ではあるが、1.60%というのは業界標準のように利用されている3.24%の手数料の“半分”を狙ったのも確かだ。そして決済でもうけるのではなく、その上で提供されるPayPayマイストアのような各サービスやローンなどの金融サービスでもうけていくのが狙い」だと説明している。

 実際のところ、競合他社と比較されるのは1.60%ではなく、1.98%の方だ。一般に競合のコード決済手数料は2%台前半から後半のケースが多く、これでもリクルートのAirペイなどの提供する3.24%と比較すれば低いのだが、最大手であるPayPayが1.98%を打ち出したことにより、この数字が今後は標準として機能するようになる。

インタビューに応じるPayPay副社長COOの馬場一氏

 あまり認識されていない話だが、これまでPayPayの決済手数料が無料だったのは、あくまで「PayPayと直に契約してMPM方式による決済を行っていた場合」のみで、例えばJPQRのようにMPM方式でも他社のゲートウェイを経由するケースでは手数料が発生していた。また、ユーザーのスマートフォンアプリ上にバーコードやQRコードを表示して店舗側の端末のカメラや赤外線スキャナで読み取る「CPM」方式の場合、他社のシステムやゲートウェイを経由する形となるため、必ず手数料が発生する。

 CPMにおいても、Airペイのような代理店のゲートウェイを介してPayPayとの間接契約を行うケースと、チェーン店など対象となる加盟店とPayPayの間で法人同士の相対契約が結ばれるケースとで手数料が異なる。前者の場合はAirペイのケースで3.24%だが、後者の相対の場合はPayPayとの契約内容に応じて個々に手数料が異なる。

 重要なのは、MPMとCPM(相対)ともにPayPayの契約内容が業界の標準となり、それより高い手数料を設定していた各社は加盟店各社からの手数料引き下げ圧力にさらされることになることだ。少なくとも手数料引き下げがない限りは競争力が維持できず、契約見直しは避けられないと判断していいだろう。

 ここでさらに恐ろしいのは次のステップだ。PayPayの決めたルールにより手数料引き下げ圧力が業界全体に波及することで、これが手数料率のボトムラインとなる。何が起こるのかというと、手数料収入を当てにしてビジネスを組み立てていた決済事業者の場合、この手数料水準引き下げにより収益モデルが大きく崩れることになる。

 前出のPayPay馬場氏の発言にもあるように、そもそも同社は決済手数料でもうける気はなく、「赤字でなければいい」(馬場氏)というスタンスだ。つまり、この圧力によって手数料引き下げに応じた決済事業者各社は赤字かそれに近い水準に落ち込むことを意味している。おそらく決済以外の部分で収益モデルを見出せなければ、そう遠くない段階で市場から退場せざるを得なくなる。これがPayPayの発表が本当に意味するところだ。

 次の項では、もう少しPayPayのビジネスモデルについて掘り下げていきたい。

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