このように、決済ビジネスそのものを赤字化しないで成り立たせるといった試みは進展しつつあるものの、有料サブスクリプションであるPayPayマイストアの「ライトプラン」や、今後PayPay銀行などと連携して提供される小口ローンサービスなどが、実際に同社の黒字化の原動力となる。正直なところ、これが実際に成功し、どのタイミングで実現するかはまだまだ未知数だ。PayPay馬場氏は「キャンペーンでも手数料でも今後も追撃は止めない」と述べており、同社の戦略として体力勝負で他社をふるい落としていくというのがあるだろう。
PayPayの決済以外でのビジネスでの黒字化が成功するかは現時点でなんともいえないが、この「他社を振り落とす」という作戦はボディーブローのようにライバルらを追い詰めているようだ。前項で「PayPayの手数料水準に追随していてはもうからない」と触れたように、少なくとも手数料頼みの他社のビジネスを破壊するには充分なインパクトを持っている。加えて、コロナ禍や諸処の要因で生じた本業の厳しさから決済など他の事業に希望を見出す事業者も増えてきており、PayPayの一連の施策はライバルらの収益性を圧迫する要因になる。
例えば、総務省の一連の施策により携帯キャリア各社は5Gのインフラ整備投資とサービス価格引き下げ圧力の板挟みとなっており、収益性が大きく低下している。ドコモとKDDI(au)ともに金融や周辺サービス事業の強化に努めているが、これもまたahamoやpovoといった格安プランのユーザーが増加して会社全体の収益率が落ちており、それを補うべく周辺事業のテコ入れがトップダウンで行われているからだ。
実際、先ほど紹介したドコモの金融サービス事業にもあるように、コロナ禍の20年で売り上げは大きく増加している。ユーザーの消費傾向が変化したことも要因だが、こうしたなかでPayPayによる他社の利益破壊作戦は非常に嫌な動きだろう。
携帯キャリアのライバルのみならず、PayPayの動きはそれ以外の業界にも波及するのかもしれない。コロナ禍で最も影響を受けた業界の1つに「鉄道会社」があるが、特に首都圏の通勤需要を担う東日本旅客鉄道(JR東日本)は非常に厳しい経営環境にさらされていることが知られている。同社ではグループ経営ビジョン「変革2027」を18年に発表しているが、2021年に入ってその目標達成時期や数値を大きく変更している。
同社が変革2027で示した目標の1つは、本業である運輸事業に大きく依存せず、SuicaをはじめとするITやサービス事業全般を合わせて、従来の6:4から5:5の比率まで持っていくことだ。一方で、交通系電子マネーの利用件数は20年度に大きく落ち込んでおり、通勤需要急減が大きく影響したことを物語っている。同社はホテルや貸しオフィスにおけるSuicaの電子キー採用を積極的に推進するなど、Suicaの利活用場面を増やすべく奮闘しているが、現金や小額決済の場面でPayPayの存在感が増したことにより、少なからず影響を受けることが予想される。このように、PayPayの施策はボトムラインの部分で業界に影響を与え、他社のビジネスプランをある程度再考せざるを得ない状況を生み出しつつある。
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