業界のルールはPayPayが決める 黒字化への道筋(後編)(2/3 ページ)

» 2021年09月02日 08時20分 公開

手数料は単純な話ではない

 この手の決済サービスを語るとき、毎回出てくるのが「手数料」の話題だが、これが高ければ収益率が上がり、低ければ利幅は少ないが利用は増える……とか単純な話ではないのが難しいところだ。前項での説明のように、手数料が決まっているMPM方式ならともかく、CPM方式は契約ごとに手数料率がバラバラであり一定していない。つまり、決済される店舗によって利益率は大きく異なる。一般に「加盟店の業態によって手数料率が決定される(物販は低く、飲食などのサービス業態やネット販売は高い)」「決済取引高の高い加盟店ほど手数料が低くなる」という傾向があるが、これはリスクや利益率などを鑑みて設定されるものだ。

 またPayPayのケースではないが、クレジットカードのアクワイアリング事業での営業において、戦略的に明らかに赤字での手数料が設定されるケースがあり、これは業界他社との競合(アクワイアラと加盟店の両方の意味合いがある)を加味して決定されたことによる。

 また、決済に用いられる「チャージソース」によっても利益率は変化する。例えばPayPayの場合、銀行口座と接続しての現金チャージのほか、コンビニATM経由でのチャージ、キャリア決済であるソフトバンクまとめて支払いでのチャージ、ヤフーカードでのチャージといった具合に複数の方法で残高チャージが可能となっている。このほか、クレジットカードを登録しておいて支払い手段を「クレジットカード」とすることも可能であり、これら複数の決済手段が同じ手数料設定の加盟店の支払いルートをたどることになる。

 現金チャージの場合は振込手数料のみのため、PayPay側の負担は比較的低い。一方で、クレジットカードを支払いのソースに設定された場合は毎回一定額の決済手数料を徴収されるため、必然的に利益率が低くなる。この利益率を可視化する最も分かりやすい例が「PayPayジャンボ」などの大規模還元キャンペーンで、直近の21年7月25日に実施されたキャンペーンにおいては、店頭での支払いはヤフーカード以外のクレジットカードの利用は対象外、ネットはPayPay残高のみ対応との但し書きがある。ネットの方が制限が厳しいのは、前段の説明にもあるようにインターネットにおける決済手数料が高めに設定されていることに由来する。

PayPayジャンボにおけるチャージソースによる還元の有無。赤字でハイライトされている部分に注目

 つまり、PayPayではこのチャージソースのバランスを見つつ、1.60%や1.98%の手数料で赤字にならないラインを設定しているとみられる。ある情報源によれば、同じくキャリア決済での“ルート”を持つd払いの場合、チャージソースの6割程度がキャリア決済、2割が銀行口座、残りがdカードとそれ以外のクレジットカードだという。自社のdカードを除けば、その他のクレジットカードの割合が1割未満で事業として成り立っていることになる。

 PayPayのチャージソースの比率は不明だが、d払いほどキャリア決済の比率は高くないと考えている。実際、1.60%/1.98%という手数料設定はかなりカツカツに近いようで、ある情報源によればPayPayはMastercardやVisaに対して同社決済サービスを通じて取引される両ブランドの決済手数料を引き下げるよう交渉を行っている最中だという。

 国際ブランドやイシュア側からみれば、PayPayを通じて利用されるクレジットカード決済は一種のゲートウェイとして機能しており、単体の決済事業者としてみれば決して低くない水準の取扱高を誇っている。同社が決済回数をKPIとして重視しているのは「普段使いの定着」というだけでなく、決済ボリュームそのものを増やして国際ブランドを含む関係各所との交渉をやりやすくする狙いがあると考えられる。

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