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» 2021年09月28日 05時00分 公開

45歳定年の波紋 「人材流動化」を生むのか、単なる「人材切り捨て」か働き方の「今」を知る(5/5 ページ)

[新田龍,ITmedia]
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 しかし、全員がエリートコースの出世を目指すという前提条件を維持すること自体が厳しくなっている中、全員に成長を求めるこの雇用慣行を継続していくこともなかなか難しいだろう。そもそも日本以外の多くの国ではノンエリートが制度設計の基本で、エリートは例外の扱いだ。世の中全体で「もう横一線平等な処遇は無理なので、これからは格差のある働き方にするしかない」と受け容れなくてはならないだろう。その上で、採用段階から明確に「成果追求型幹部候補職」と「ワークライフバランス重視型無期雇用職」といった形に分けることなどが考えられる。

 現状の仕組みのままだと、意欲もあって成果も出せるような前者の人材にはなかなか報いることができず、逆にマイペースでやりたい後者の人にとっては組織からの要求が過大で、いずれにせよ不満を抱かせることになってしまっている。同時に、出世や幹部を目指してバリバリ働く生き様が称賛され、エリートを目指さないのは「やる気がない」「落ちこぼれ」と目される風潮も否定すべきであろう。

 個々人によって心地よい働き方はさまざまであるし、ノンエリートコースでも十分に幸福な人生を歩める社会であるべきだ。「格差を設ける」という響きだと嫌悪感を抱く人もいるかもしれないが、「各自の価値観に合った、多様な『働きやすさ』を実現する」という意図であれば納得されやすいはずだ。

画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ

「人材流動」が「45歳定年」を可能にする

 また、45歳定年制を実践する企業側がメリットを一方的に享受するだけでは不公平である。相応の責任が果たせる企業だけが恩恵を受ける形にするべきだろう。例えば「どこでも食っていけるだけのスキルやキャリア」を意図して社員を育て、鍛えてきた会社だけが堂々と主張できる仕組みにするなどが考えられる。

 かつてリクルートは「38歳定年制」などと呼ばれていたことがあるが、38歳で一律定年退職になるわけではなかった。強いプレッシャーを伴う仕事を通じて、社外でも広く通用するだけのスキルを培え、かつ38歳時点での退職金が高額になる制度設計により、健全な新陳代謝を図る仕組みを備えていた、というのがその真相だ。実際、30代後半から40歳くらいにかけてが管理職に昇進する瀬戸際の年齢であり、管理職に昇進できないまま「働かないおじさん」となるのを予防する、効果的な制度であったと考えられる。

 45歳定年制を実現するには、単に就業規則を変更すれば終わりというわけではない。わが国の法制と雇用慣行自体を根本から見直し、企業も制度を改革し、労働者とわれわれ一般国民全てが意識を変革しなくてはいけない大仕事なのだ。その整備がない限り、単に45歳定年制だけを導入しても混乱するだけで、早晩崩壊することだろう。「45歳定年制を導入すれば人材流動化が起こる」のではなく、「人材流動化という土壌があってはじめて45歳定年制が実現可能になる」のだから。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)他多数。


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