昨年に本連載シリーズで取り上げた「黒字リストラ」記事では、年収800万円の45歳の社員をリストラする場合、20年間で1人当たり3億2000万円のコストカットになるとシミュレーションした。
将来が期待されていた社員が今回の早期退職にどれだけ含まれていたかは不明だが、1人当たり年間たった千数百万円のコストを浮かせるために会社の未来を左右し得る人材を失うのであれば、長い目で見て相当な痛手だ。
早期退職制度はコストカットという点で経営成績の向上が期待できる効果もあるが、簡単に成果が出るぶん、優秀人材の流出という点で将来の成長が難しくなるデメリットもある。いわば人材の“焼畑農業”だ。
時代が変わった現代の日本で、本当に早期退職制度は合理的な経営判断といえるのだろうか。
そのそも早期退職制度は「リストラ」と分類されることもあるが、実際はリストラではない。リストラでないということは、成果や評価が芳しくない者が必ず早期退職に応募するわけではなく、応募が義務でもない。逆に評価の高い者も退職できてしまう制度である。
終身雇用が約束されており、人材の流動性が低かったかつての日本においては、早期退職制度は落ちこぼれてしまったものの烙印(らくいん)が付き、実質的なリストラといって差し支えなかった。
しかし、人材の流動化が急速に進み、働き方も多様となった現代における早期退職制度は、転職によるキャリアアップや起業などを検討する優秀な人材にとって、わだかまりなく会社を辞められるばかりか、多めに退職金ももらえる点で、チャレンジしたかった者にとって渡りに舟だったといえる。
「会社に義理はないのか!」という声もあるかもしれない。しかし、入社時は終身雇用を前提として年功序列で安い給与で働いていた社員が、いざベテランとなったらやれ早期退職だ、45歳定年だ、などといわれるのは、給与の後払い分を踏み倒すことと同じであり、会社に対する信頼、もとい心理的安全性を失わせて当然である。
今回、パナソニックで早期退職制度に応募しなかった社員にとっても、「うちの会社はこういうことをやるのか」と認識させるだけでやはり心理的安全性は下がるものだ。パナソニックは「人間大事」の教訓を先代の言葉からでなく、“痛い目”という形から認識することになるかもしれない。
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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