コラム
» 2021年10月27日 05時00分 公開

“反ワクチン”600人解雇の波紋 「違い」を「分断」にしないためには単純な図式化の危険性(4/4 ページ)

[川上敬太郎,ITmedia]
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 何が正解かが明確ではない中で、ワクチン接種を巡り、おのおのが自らの立場で判断しなければならない現状において大切なことは、判断の“違い”を“分断”へとつなげてしまわないことです。

 違いを分断へとつなげてしまうと、不要なストレスや争いを生み出してしまうことになります。また、あるべき職場づくりという観点においては、SDGsなどの活動を通じて世界中で重視されているダイバーシティー&インクルージョン(多様性の包摂)の考え方に反することになります。

画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ

 「ダイバーシティー経営」を推進する経済産業省は、その定義について次のように説明しています。

 “多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営”

 また、上記の定義にある「多様な人材」という言葉の説明としては、次のようにあります。

 “性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性も含みます”

 ワクチン接種の判断が各自に委ねられている以上、判断の違いもまた多様性の表われです。その違いを排除すべき対象と見なして“分断”へとつなげてしまうのか、あるいは多様性を受け入れる観点から尊重するのか。日本社会だけでなく、今世界中が大きな岐路に立っているように思います。

 それは、職場という小さな社会の中においても同様に当てはまります。もし、今のところ職場の中で目に見える分断は起きていないとしても、ワクチン接種を巡る判断の違いが、“心の壁”を生み出してしまっている可能性はあります。“心の壁”は、目には見えないまま職場内を分断してしまいます。

越境の時代だからこそ、「包摂」の観点を

 今、社会の中では新型コロナウイルスのワクチン接種を巡る判断の違い以外にも、さまざまな分断の種がまかれています。SNSが広がり、物理的距離を超えて人々の間につながりが生まれた一方で、志向の違いなどに応じて無数のコミュニティーが形成されています。働き方においてはテレワークや副業が推進されるなど、これまでのように一つの会社に縛られずに越境することが珍しくなくなってきています。つまり、単一のコミュニティーに束縛されてきた時代から、誰もが複数のコミュニティーを行き来する時代へと移り変わりつつあるということです。

 それは、個々の自由度が高まり、画一的な世界観から解放される一方で、個々の違いを互いに認識する機会が増えるということでもあります。その違いが、互いに排除しあう方向に作用してしまえば分断され、尊重しあう方向に作用すれば“包摂”されることになります。

 個々の違いにフタをして単一コミュニティーに押し込めるような職場づくりは、もはや時代に合わなくなってきています。求められているのは、互いの違いを尊重して包摂し、多様性を強みに変えることができる職場づくりです。

 今後、感染予防の効果が確認されるなど、ワクチンに関する情報が更新されれば、個々の判断が変わってくることもあると思います。また、国や会社がワクチン接種の義務化を方針として打ち出せば、ルールに沿って行動しなければなりません。しかし、現時点ではワクチン接種の判断は各自に委ねられています。日本では現在、感染者数は減少しているものの、第6波の到来も懸念されています。誰もが今後も、日常生活や職場の中でワクチン接種に対する判断の違いを感じ、葛藤を抱える場面に遭遇する可能性があります。それは都度、社会や職場を分断か包摂かに分ける岐路となるのだと思います。

著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)

ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ3万5000人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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