印刷、押印、製本、郵送、書留、FAX、出頭、PPAP、印紙、注文請書……。日本から無数の“雑務”がなくならないのはなぜなのか。いつになったら、私たちはスマートに働けるのだろうか? 本連載では350以上の企業や自治体、官公庁などでの組織や業務の改革支援を行ってきた沢渡あまね氏が、働き方の“悪しき常識”に疑問を呈し、改革への道筋を探っていく。
印刷、押印、製本、郵送、書留、FAX、出頭、PPAP、印紙、注文請書……。これらの雑務に嫌悪感を持ち、寒気や吐き気を催すくらいの感覚を持つ人でないと、DXもイノベーションも実現できない。
ましてや、これらの手間とコストを相手に当り前のように強いる感覚は、これからの時代のビジネスパーソンとしていかがなものかとさえ思う。「コスト削減」を要求する割に、煩雑な事務作業により発生するコスト(相手のタダ働き)には無頓着。そのおかしなコスト感覚は改めてもらわなければならない。
世の中のいわゆるマナー講師各位も、茶の湯のような雅なビジネスマナーはどうでもよいから、こうした業務プロセスをとがめてほしいものである。
そうした“事務作業大国日本”のネガティブインパクトは、国民や民間企業に勤める人たちだけにとどまらない。ルールを作る「中の人たち」、すなわち霞が関内部にも悪影響を及ぼしている。
官僚のなり手がいない。退職者が後を絶たない。
筆者の身の回りでも、中央省庁を退職する人が増えてきている。彼/彼女たちは年齢に関わらず、例外なく超優秀である。退職者の中には、近い将来の事務次官と評される人物も複数名おり、周囲を驚かせている(とはいえ「そりゃ、そうだよね」と共感する声も多い)。
最近は退職前提で入庁する、新卒採用の職員も少なくないそうだ。「次どこに転職するか」「3年勤めて次に行く」──このような会話がなされていると聞く。
無理もない。「俺たちも理不尽を味わって苦しんだのだから、お前たちも苦しめ」を部下に押し付ける思考停止した上長のもと、古いお作法、アナログなやり方の雑務を押し付けられ、深夜残業させられる。
極め付きは3年程度で配置転換。まったく畑の異なる部署に強制的に移動させられる。求められるのは理不尽に耐える気合・根性のみ。専門性もスキルも身につかない。健全に成長したい人であれば、危機感と焦りを募らせて当然だ。
幸いなことに、霞が関を数年経験した人材はコンサルティングファームや広告代理店などにウケが良いという。官公庁の独自のお作法、「霞が関ガラパゴス」な業務プロセスを熟知した人間は、官公庁向け案件を手掛ける民間企業には重宝されるようだ。
もはや霞が関は、キャリア官僚がキャリアチェンジするための踏み台にしかならないのかもしれない。
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