なぜ某カフェチェーンは時給を上げないのか 「安いニッポン」の根本的な原因スピン経済の歩き方(3/6 ページ)

» 2021年11月09日 09時55分 公開
[窪田順生ITmedia]

「安さで勝負」というビジネスモデル

 「軽く言うな! 時給を上げて店が潰れたら元も子もないだろ」とキレる経営者も多いだろうが、このカフェが最低賃金労働である理由は、経営云々(うんぬん)ではなく、もっとシンプルな理由だ。

 この店のカフェラテ(R)は352円、一方、スターバックスラテはトールで418円。銀座ルノアールは店舗によって価格はバラバラだが、「食べログ」によれば池袋東口店の「カフェ・オーレ」は710円だった。

 ここまで言えばもうお分かりだろう。このカフェが、他店にバイトを奪われてまで最低賃金労働を続けているのは、時給を上げたら店が潰れるとか、経営が傾いているとかではなく、「安さで勝負」というビジネスモデルを続けているからなのだ。

カフェでも人手不足が深刻に

 このカフェがそこを転換して、スタバやルノアールのように別の「付加価値」を訴求するビジネスモデルへ舵(かじ)を切れば、カフェラテを400円程度に値上げできる。時給もアップできる。もちろん、「コーヒーが400円! こんなボッタクリ店に二度と来るか!」という客は確実に離れるが、味、店内環境、サービスなど質が向上すれば新たな客が来る。

 このように「価値を高める」ことが本来の「経営努力」なのだが、日本ではなぜか、商品やサービスの安さを維持するため、いかに賃金を低く抑えるか、いかにケチるかが経営努力とされている。まさしくそれが「安いニッポン」の根本的な原因でもあるのだ。

 よく言われるが、日本の外食の価格は、他の先進国と比べて「異常」に安い。英国の『エコノミスト』が毎年、世界各国のビッグマックの価格を調べているが、2021年6月の数値を見ても、日本のビッグマック価格は3.54ドルだが、米国の5.65ドルを筆頭に、多くの国が日本よりも高い。

 なぜ日本の食はこんなに安いのか。「デフレだから」「日本が貧しいから」などいろいろな原因があるが、本質的なところを言ってしまうと、「外食が異常に多すぎる」ということに尽きる。あらゆる店が林立しているせいで、低価格競争が過激化してしまうのだ。

 市街地でコーヒー一杯500円の店を見て、「ちょっと高いな」と思った人がちょっと歩けば、400円の店はすぐに見つかる。さらに駅前のチェーン店などをのぞけば、200円台のコーヒーもゴロゴロしている。喫茶店やカフェがあまりにも多く競争が激しいので、手っ取り早く客に選んでもらえるよう、極限まで「安さ」を追い求める店があふれているのだ。

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