無敵の人の動機をみる限り、その行動原理は「正当防衛」や「緊急避難」に近いとも考えられる。正当防衛とは、自分や他人の命や財産が危機に瀕(ひん)している場合にやむを得ず行ってしまった犯罪行為は、一定の条件のもとでその違法性がなくなり、罰せられなくなるというものだ(当然だが、「無敵の人」の犯罪は罰せられてしかるべき行為である)。
具体的には、相手が鈍器で自分を殴ろうとした時に殴って反撃したり、自分が今にも車にひかれそうになったりした時に事故を免れるために歩行者を突き飛ばしてしまったようなパターンだ。これらの行為は本来「暴行罪」ないし「傷害罪」などが適用されるはずだが、その行為には違法性が伴わなくなるため罰せられない。
「無敵の人」たちの行動原理は、これまで自身を虐げている社会に対して防衛をしているというきらいがある。「無敵の人」たちの行動原理を社会の侵害行為に対する防衛と捉えると、「無敵の人」の犯行が特定の人物を対象としたものではなく、公共交通機関や白昼の街中といった社会的衆目・インフラのもとで決行されていることの説明もつくのではないだろうか。
「無敵の人」と似た属性に「テロリスト」があるが、これは政治的な主張を非合法の行為で認めさせようとすることを動機とした組織的な犯罪だ。それに対し、「無敵の人」は政治的な主張を伴わない個人単位での犯罪という点で違いがある。
イデオロギーによって根本的に違う価値観・考え方を持っているテロリストと比較して、無敵の人は彼らが感じている社会からの侵害が取り除かれれば十分に更生する可能性が高い。裏を返せば、今は「普通の人」である私たちも環境が変わることで「無敵の人」に豹変(ひょうへん)してしまう可能性が十分ある。
無敵化した人を普通の人に戻すことや、普通の人が無敵化しないようにするためには、道徳教育といった精神的な対応では不十分で、抜け目のないセーフティネットの構築や、失敗しても復帰が可能なルートを用意・周知することで、無敵の人や予備軍の人々に「失うもの」を持たせ、犯罪の機会費用を高めていく施策も併せて求められてくるのである。
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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