このところ、大手企業による会社分割の動きが続いています(図表)。米国ではゼネラル・エレクトリック(GE)が11月9日、会社を「航空機エンジン事業」、「医療機器事業」、「電力事業」に3分割することを発表しました。また、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)も11月12日、会社を日用品や市販薬を含む「消費者向け事業」と、処方薬や医療機器などの「医療向け事業」に2分割すると発表しました。
一方、日本でも東芝が11月12日、会社を「インフラサービス会社」「デバイス会社」「資産管理会社」に3分割すると発表しました。インフラサービス会社とデバイス会社は、新会社として2023年度下期の上場を目指す一方、東芝本体は資産管理会社として存続し、半導体大手のキオクシアホールディングスや、POS(販売時点情報管理)システムを手掛ける東芝テックの株式などを保有することになります。
このような会社分割の動きは、米国では化学大手のダウ・デュポンや電子商取引(EC)大手のイーベイなどの先例がありますが、日本では、大手企業が会社を完全に分割し、それぞれを上場させるスキームは初めてとなります。なお、傘下に性格の異なる複数事業を持つ企業が、各事業に適切な経営判断ができていない場合、その企業の価値は、事業ごとの価値合計に比べ、過小評価されることがあります。
これを「コングロマリット(複合企業)ディスカウント」といいますが、GEやJ&J、東芝が会社分割を決断した背景には、このような問題があったのではないかと推測されます。なお、会社分割の効果としては、一般に、(1)「経営の独立」、(2)「資本の独立」、(3)「上場の独立」によって、分割する会社と分割される会社、双方とも企業価値の向上が期待されるという点が挙げられます。
具体的には、(1)の「経営の独立」により、分割する会社は中核事業に専念できる一方、分割される会社は迅速な意思決定ができる利点があります。また、(2)の「資本の独立」により、第三者は、分割する会社か分割される会社の、どちらか一方のみに出資することが容易になります。そして、(3)の「上場の独立」により、分割する会社はコングロマリットディスカウントを解消し、分割される会社は新たな投資家を引き付けることが期待されます。
近年、グローバルな経営環境は、デジタル化や脱炭素化の動きが加速するなか、著しく変化しており、複合企業による会社分割の流れは今後も続くことが予想されます。とりわけ国内では、初めてのスキームとなる東芝の今後の動向に注目が集まります。東芝が成功事例となり、後に続く企業が増えれば、日本全体で産業の新陳代謝が進む可能性が高まるため、海外投資家が日本株を見直す1つのきっかけになることも考えられます。
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。
© 三井住友DSアセットマネジメント
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