業績の上方修正前やスマートフォン事業への新規参入発表前にインサイダー取引の恐れがある株取引をしていたとして、バルミューダは社外取締役を務めるJINSの田中仁社長に対し、5月から10月までの役員報酬の全額返納に加え、11月以降、5カ月間100%の減給処分を下した。
同社は「売買承認期間に関する錯誤が原因で、悪質性は低い」との見解だが、報道を巡っては「インサイダー取引ではないか」との批判も少なくない。同社初のスマホ「BALMUDA Phone」の発表と重なり、同社としては“最悪のタイミング”での発表になったといえる。
一連のインサイダー取引“疑惑”を専門家はどう見ているのか。会社法や金融商品取引法が専門で、インサイダー取引に詳しい立命館大学法学部の品谷篤哉教授に話を聞いた。
バルミューダは5月13日の午前11時、田中社長に対して翌14日から20日までの「売買承認期間」での買い付けを社内で承認。だが田中社長は13日の正午ごろにバルミューダ株を購入し、同日深夜に「誤って株を購入した」とバルミューダに報告した。
バルミューダは、田中社長が購入した株式の規模を「非公開」とする一方で、同社株を現在も保有し続けていることを明らかにしている。品谷教授は「購入株の規模が分からないため、取引の悪質性が分からない」と前置きした上で、バルミューダの発表資料などから「第一印象としてはインサイダー取引に該当する」との見方を示した。
金融商品取引法166条は、会社関係者のインサイダー取引を禁止している。品谷教授は同法を根拠に、田中社長が社外取締役という「会社関係者」、スマホ事業への参入などが立件時の構成要素である「重要事実」に該当すると指摘。「別の要素である『故意』『悪質性』を当局側がどう判断するか次第だ」としつつ「有罪になるかは現時点では分からないが、一般論としてインサイダー取引として立件されてもおかしくない」と述べた。
田中社長は株取引について「売買承認期間を錯誤していた」とバルミューダ側に説明。同社もその説明に同調し「悪意をもって行われた取引ではない」との立場だ。株を購入した理由についても田中社長は「(株を取得することで)投資家目線で発言したかった」と話しているという。
品谷教授はこうした説明に対しても苦言を呈する。実際、田中社長が株取引をした5月13日から翌14日にかけては、バルミューダ株が終値ベースで約1000円値上がりしている。
このため「社外取締役である田中社長がスマホ事業参入の重要性を認識していなかったとは考えにくい」とし「勘違いでは済まされない問題」と強調。「JINSという上場企業のトップがインサイダー取引について何も知らなかったとは考えにくく、こうした言い訳が通ると、東証のガバナンス体制が問題視されるだけでなく、JINSの株主からの批判は免れないだろう」とした。
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