良い円安と悪い円安について考える市川レポート 経済・相場のここに注目(1/2 ページ)

» 2021年11月29日 12時55分 公開
[市川雅浩三井住友DSアセットマネジメント]
三井住友DSアセットマネジメント

良い円安は輸出企業に追い風となり、悪い円安は輸入企業に向かい風となり値上げにもつながる

 このところ、「良い円安」「悪い円安」という言葉をよく耳にするようになりました。そこで、今回のレポートでは、これらの意味するところについて考えてみます。まず、良い円安からみていきます。一般に、円安が進行すると、輸出企業にとっては、海外市場における自社製品の価格競争力が高まるため、業績改善につながることがあります。また、輸出から輸入を差し引いた純輸出が増えれば、GDPの押し上げ要因となります。

 次に、悪い円安をみていきます。日本は原油や液化天然ガス(LNG)などのエネルギーのほか、大豆や小麦などの食品も輸入に頼っています。これらは基本的に外貨建て取引のため、一般に、円安が進行すると、これらを輸入している企業にとっては、輸入コスト増で業績が圧迫されることがあります。また、企業がコストの増加分を価格に転嫁した場合、家計にとっては製品の値上がりとなるため、消費への影響が懸念されます。

最近では悪い円安の声が多いが、これは近年の輸入の大幅増加による貿易黒字の減少が背景

 このように、円安の進行には、良い面と悪い面があると考えられますが、最近では、悪い面を指摘する向きが多いように思われます。これは、原油や小麦などの価格が上昇するなかで、円安が進行しているためであり、円安によって、これら輸入品の円建て価格が一段と押し上げられ、輸入企業や家計に深刻な影響が及ぶのではないかという、不安のあらわれと推測されます。

 一方、良い円安については、これを期待する向きは少ないように思われますが、その理由は日本の経常収支の構造変化にあると考えます。コロナ前の2019年と20年前の1999年について、経常収支および構成項目を比較したものが図表1です。経常黒字は1999年の約13兆円から2019年は約19兆円に増加していますが、構成項目である貿易黒字は1999年の約14兆円から2019年は約1500億円に激減しています。これは輸入の増加(増加率+143.0%)が輸出の増加(同+67.4%)を大幅に上回ったことによるものです。

日本の経常収支と構成項目
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