それでも、これまで管理職が企業の中で機能してきたのは、組織が従来型のピラミッド構造やトップダウンの意思決定を前提とした、シンプルなマネジメント構造だったからです。この環境下では、会社が決めた戦略や目標を各部門やチームに下ろしていく中で、管理職としていかにそれを部下に実行させ、結果を出すかが評価の大部分を占めます。
しかし、現代はテクノロジーの進歩と共に環境の変化が激しく、必ずしもトップダウンで決めたことが正しいとは限りません。その結果、現場の最前線の状況やアイデアについて、経営陣は中間管理職にボトムアップを要求し始めます。
一方で現場側もまた、大きく変化しています。例えば、今の20代、30代は転職が当たり前の世代であり、1社で定年まで働こうと思っている人は少数派になってきました。これまで、転職を機に自らキャリアを発展させていく方は外資系企業に多い傾向にありましたが、今や日系企業においても当たり前の時代になってきました。
また、かつては給料こそ最も重要だったかもしれませんが、現在は人によって、ワークライフバランス、裁量権、グローバル、自己成長、社会的意義など、それぞれが多種多様な価値観・判断軸をもって仕事に向き合っています。
このような状況で求められるマネジメントスタイルは、「羊飼い型」のリーダーシップと言われます。つまり、羊たち(メンバー)は自分たちで動きたい方向に動いているようでありながら、実際にはリーダーが後ろからうまくあるべき方向に導いている。自発性と方向性を両立させているわけです。では、こういったことを実践できている管理職には、どのようなスキルがあるのでしょうか。
私が人材コンサルタントとしてお会いしてきた優秀な管理職の方々には共通する4つの要素がありました。それは「分析力」「言語化」「個別化」「リソースフルネス」です。
既に組織の課題が明確であれば別ですが、現代のような複雑な状況下ではそもそも課題が顕在化していないことも多くあります。だからこそ、数字などの事実に基づいた分析をし、課題を特定する能力が必要です。
特に数字で状況を語れることは非常に重要で、多種多様な価値観を持った部下たちに対しても、認識をそろえて明確な説明ができるようになります。管理職のポジションであれば、面接時にこの分析力にまつわる質問を聞かれる場合が多いです。
リーダーの役割は「自分の考えをチーム内に流通させること」です。つまり、その人が何を考えているのか、メンバー全員が理解・共有している状態を作り出す必要があります。そのためには、まずそれぞれの思考を言語化できる能力が非常に重要です。この言語化の力を通して、チーム内で共通認識となるルールを策定していく力も問われます。
リモートワークへの移行に伴い、1on1コミュニケーションの機会も増えていると聞きますが、メンバーとのコミュニケーションでは「人の価値観は異なる」という前提に立つ必要があります。
たとえ目の前に達成しなければならない、分かりやすい数字目標があったとしても、それだけを追わせることにあまり意味はありません。彼ら彼女らの中長期的な目標やゴールは何か、それに目の前の目標はどうつながっているのかを、時に壁打ち相手となりながら、一緒に考える必要があります。
これは特に転職の際に重要になる能力です。リソースフルネスとは、リソース(資源=資金、人的ネットワークなど)がない状態でもそれを自ら作りだす力のことを指します。転職をすれば多くの場合社内ネットワークはゼロになり、メンバーも全くお互いを知らない状態からスタートすることになります。その状況下においても、必要なリソースを見極め、自ら最速でそれを目的のために構築できれば、組織にとっても良いインパクトを与えることができます。
一見、管理職は社内の文化やシステム、人脈を深く理解していなければ成功し得ないものであるとも思われがちです。しかし、実際には業界を問わず通用しうるスキルを持っていることこそが、転職市場においては重要です。
これから管理職を目指す方も、既に管理職に就いている方も、改めて上記4つのスキルについてご自身で振り返っていただき、弱い部分があれば、日々の業務の中でぜひ意識して取り組んでみてください。そうすることで、いざ転職したい、あるいは転職せざるを得ない状況になった際、より多くのチャンスに、より良い条件で巡り合えるはずです。
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