新生ハンズが地方に大量出店? 「王者」カインズの東急ハンズ買収から見える、意外な未来ニトリの背中も見えてきた(4/4 ページ)

» 2022年01月26日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]
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 ここからは筆者の妄想でしかないが、ハンズはセレクトショップとして幅広い商品に関する高い情報収集能力を持っており、この情報を基にカインズはこれまで以上に尖がったPB開発を進められるのではないか。そして大都市型住生活に適した商品を軸に、カインズの新たな勝ちパターンが完成する可能性が高くなるだろう。これまで、ハンズもショールーム化を避けるためにPBの導入を強化してきたのであるが、PBを強みとするカインズとの連携でさらに進化が期待できるというわけだ。

 さらに極端な見方をすれば、ハンズはセレクトショップに回帰し、ショールーム化を辞さず運営し、多様な商品のテストマーケティングの場に徹するという選択肢もあるのではないか。得られた情報をカインズとのPB共同開発に活用することで、カインズの大都市住生活向けPBは充実し、その収益を両者が享受できる仕組みを構築すれば、ハンズはショールーム化を逆手にとった原点回帰が可能になる。カインズは知る人ぞ知る流通DXの最先端企業でもあり、ハンズの販売データ、接客データなどをビッグデータ化し、商品開発、売場作りに活用していくのだ。

地方出店がハンズの起爆剤に?

 これまでハンズは、大都市のターミナルや大型ショッピングモールの高い賃料を負担しつつ、何とか収支トントンでやってきた。ロングテールなビジネスだと、地方では出店投資に見合うほどの客数、売り上げが見込めないと考えていたからであろう。

池袋のランドマークだった池袋店も21年に閉店

 地方郊外に225店舗(21年2月時点)を広域展開するカインズの1店舗当たり売り上げは平均で21億円を超えており、DIY商品の売り上げに関しても業界トップクラスの実力がある。カインズは地方各地のDIY顧客層を業界トップクラスに集客できる店舗網を持っているのであり、ハンズが今後、カインズ店舗内にフランチャイズ方式で出店するのはアリだろうと思う。場所代が都市部に比べて圧倒的に安くなるし、DIY文化を共有するカインズ社員であれば、ハンズ加盟店としての接客対応も十分可能であろう。ハンズには「トラックマーケット」という期間限定出店のノウハウもあり、すぐにテストマーケティングも可能だ。カインズ店舗が、ハンズの地方における出店余地となれば、これまでほとんどリーチできなかった地方のDIY顧客層にアプローチが可能になる。地方の消費者にとっても喜ばしいことではないだろうか。

 さて、ここまで本稿を書き終えてみて、ハンズは最良のパートナーと組むことになった、とあらためて感じた。「DIY文化を共創する」という共通の目的に向かって、地方住生活と大都市住生活、セレクトショップとPB、ショールーム化に対抗するDX化――さまざまな視点で相互補完し得るベストな組み合わせが生まれたように思うのである。重ねて個人的感想をいわせてもらうと、渋谷スクランブルスクエアや各地のららぽーとに構える、今のおしゃれ雑貨中心のハンズは、過去の勢いがあったころのハンズと比較してDIY文化のごく一部分しか表現できていないように思われる。ショッピングモール立地に依存することなく出店できるようになれば、往年のハンズが見せてくれた“尖った”売場が戻ってくるのではないか。今や、カインズの店舗には、おじさんだけではなく、地方のDIY女子も多数来店しているのであり、そうしたハンズの売場は、きっと支持されると思うのである。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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