「よりおいしくするための課題は”香り”と”食感”」と杉野氏は話す。人間の味覚は味付けによっていくらでも「だます」ことができるが、かんだときの食感、飲み込むときに鼻腔(びこう)を通って脳に届く香りはだませないという。
「日本には、海外にあるような豆を平たくつぶして食べるみたいな大豆臭が強い料理が多くありません。豆腐などはありますが、多くが加工食品です。日本人は大豆臭になれていないので、料理から香る大豆臭に敏感な人が少なくないと思います」(杉野氏)
現在は大豆臭を感じにくくするために香辛料を入れて、脳に届く香りをコントロールしているという。今後、日本人がおいしいと感じる味や香りの再現により力を入れる。
より難しいのは「食感」だ。特にハンバーグは、つなぎの役割を果たす卵が使えないことが違和感を強めてしまったのかもしれない。味はおいしいが、つなぎがない分”ぽそぽそ”とした食感が肉感を弱めている印象だった。
「現状できることは、個人が”その料理”からイメージする味を正確に再現していくことだと思っています。使っている材料は大豆だけど、料理の腕でおいしくすること。もちろん、技術革新が起こり、生卵の代替品が登場したらよりおいしく、食感も遜色(そんしょく)ない料理が作れると思うので、積極的に使っていきたいです」(杉野氏)
「普通においしい」だけで浸透しないのがプラントベースの難しいところだろう。肉を使ったメニューを超える「おいしさ」や「また食べたい」という感情の醸成が求められ続ける。
杉野氏は取材の中で「コメダイズで大事にしているのは”おいしいこと”。プラントベースを使っているというのは後からでいい」と強調していた。日常の食事の中で環境問題に配慮した選択をしている人はまだまだ少数派だろう。人々の食体験を一気に変えることは難しいが、「おいしい」を積み重ねていくことで少しずつ変えていくことはできるかもしれない。
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