熊本のアサリだけじゃない? いま、日本の国産ブランドが危ない理由古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2022年02月04日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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海外への品種流出も大きな課題へ

 産地偽装は主に国内におけるブランド毀損(きそん)問題であるが、国際的な観点においても国産ブランドの立場を揺るがしつつある。例えば、シャインマスカットも中国などを中心に流出し、海外で無断生産・無断流通されていることが問題視されている。

 シャインマスカットは農林水産省の研究組織である「農業・食品産業技術総合研究機構」が30年以上にわたる品種改良の末に開発した品種だ。皮ごと食べられ、甘味も強い高級品種であることから、その苗木が狙われている。シャインマスカットの苗木は国内のホームセンターやネットショッピングなどでも購入でき、20年4月までは「種苗法」の国外持出禁止品種でなかった。そのため、シャインマスカットは比較的容易に中国市場へ流出し、現在では「陽光バラ」「香印翡翠(ひすい)」などという名前で売られている。

マスカットの香りを楽しめる上、皮に渋みがなく皮ごと味わえるシャインマスカット(農林水産省)

 この「陽光バラ」や「香印翡翠」は、中国内だけでなく、東南アジアへさらに輸出され、タイや香港、マレーシア・ベトナムといったグローバルマーケットにおいてシャインマスカットが本来得るはずであった潜在的な市場が侵されている。

 シャインマスカットの他にも、「和牛」の流出も懸念が大きい。19年には大阪府在住の男性二人が、中国人の知人に頼まれて和牛の受精卵と精液を上海に輸送しようとし、逮捕された事例も発生している。しかし、この事例では、シャインマスカットに対する種苗法のように、持ち出し自体を禁じる法律が現状存在しないことも国産和牛ブランドの立場を揺るがしている。このときは、家畜の伝染病を防ぐための「家畜伝染病予防法」違反と関税法違反の容疑で逮捕されている。

 物流がはるかに効率的となった現代では品種の流出リスクが高い。シャインマスカットのような果物や畜産物である和牛のように、それぞれの品種を縦割りの法律で管理するのではなく、包括的に管理できるような法整備も必要となってくると考えられる。

蓄養期間が長ければ偽装が「合法」となる違和感

 最後に、あさりの件に話を戻そう。

 今年4月からは、食品表示法の改正基準が施行される。今回の改正では、食品の原料原産地表示の方法がさらに詳細となる。これまで、加工食品にまつわる原産国名の表示義務は、緑茶やカット野菜などの22の食品群及び、うなぎの蒲焼といった4つの個別品目に限られていた。しかし、これからは輸入品などを除いた原則すべての加工食品に、原産国名を表示ないしは確認できる状態にしておくべきことが記されている。

 ただし、このような法整備も、熊本のあさり事例のような偽装の特効薬とはなり得ない。そもそも、今回事例では熊本におけるアサリの蓄養期間が、本来アサリが生まれた国の生息期間よりも長ければ食品表示法上は「合法」となっていたものだ。この点について違和感を覚える消費者も少なくない。そのため、今後は「原産国」のほかに、もともとどの国で生まれたものなのかについても表示するような法整備が、消費者目線から求められてくるのではないだろうか。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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