熊本のアサリだけじゃない? いま、日本の国産ブランドが危ない理由古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)

» 2022年02月04日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

 熊本県産あさりに“緊急出荷停止宣言”が発出された。

 熊本県の蒲島郁夫知事は2日、県産のあさりの食品偽装問題をめぐり、8日から2カ月ほどの期間、すべてのあさりの出荷停止を宣言した。本件をめぐっては金子原二郎農林水産大臣も「年間の漁獲量を大きく上回る量の熊本県産あさりが販売されている」という推測結果を公表していた。その販売量は2485トンにものぼり、2020年の漁獲量21トンに対して100倍以上の水準となっていたという。

あさり(写真はイメージ、写真提供:ゲッティイメージズ)

 今回の食品偽装事例が他の事件と一線を画すのは、一事業者の偽装というよりも地域ぐるみでの偽装である可能性が高いということだ。仮に、ある食品偽装事件が問題となったとして、それが1メーカーや加工会社の単独での事例であれば、そのメーカーの製品を買わないという対応が取れることもある。そのため、食品そのものに対してというよりも、メーカーへの信頼が落ちるという流れになるのが一般的だ。

 しかし、今回の事例で農林水産省は、熊本産あさりの97%について外国産が混入している可能性があると分析している。販売された2485トンは、1漁師や水産加工会社といった単独レベルの食品偽装問題として片付けられることもないだろう。したがって、今回の問題は熊本県産あさりの根幹を揺るがす事態ということになる。

 そのような事情もあって、熊本県は県知事が直々に「緊急出荷停止宣言」を行うという異例のスピード対応に踏み切ったわけだ。

成長の曲がり角で偽装は発生する?

 以前に食品偽装が大きな話題となったのは、世界金融危機の発生する前年、07年のことだった。この年は不二家のシュークリームや、石屋製菓の白い恋人、ミートホープの食肉、赤福餅、船場吉兆事件といった今でもなお語り継がれる著名な食品偽装事件が相次いで発覚した。08年には、韓国産のワカメを鳴門産わかめと偽装して販売していた事例も発覚した。

 成長の曲がり角で、それでも業績を出すために大胆な偽装の手口に打って出た結果、長年の偽装が発覚するというのが、これまでの食品偽装事件が明るみに出る王道パターンだ。昭和52年には6万5000トンも採れた熊本県のあさりは、年々採取量を減らし、直近では21トンしか採れていない。最初はおそらく数%程度の外国産混入から始まったものが、バレないという安心感のもとで徐々に比率が逆転し、最終的には97%が外国産になったことで明るみに出たのだろう。

 一方で、アサリの漁獲量に対して、出荷量が100倍を上回るといった異常な流通状況が事態発覚まで看過されていたことは別の意味で問題となる。この点については、国産牛肉などですでに活用が進んでいるトレーサビリティの拡充によって、迅速に捕捉・対応ができるような仕組みづくりも急務となるだろう。

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