世界的なインフレの影響が、日本の家計に大きな打撃を与える可能性がある。
2020年に先物価格がマイナスとなって大きな話題となった原油価格は、一時86ドル(10月18日)まで値段を回復している。円相場も今年の初めは1ドル103〜105円程度で推移していたが、今や114円台まで円安が進行している状況だ。「世界的な物価の上昇」と「急速な円安相場」というダブルパンチによって、毎年恒例となっている”値上げの秋”も今年は一段と厳しさを増している。
10月の価格改定では、家庭用のマーガリンや小麦などが値上げとなったほか、米国の輸入牛肉の価格高騰が著しい。農畜産業振興機構によれば、米国産牛バラ肉1キロの卸売価格は、前年比で約1.8倍の1113円にまで上昇しており、関係者の間では“ミートショック”といわれはじめている。
OECD(経済協力開発機構)の調べによると、G20における今年のインフレ率を3.7%、22年のインフレ率を3.9%と予想している。主要国で最もインフレ率が高いのは米国であり、今年9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で5.4%も上昇した。
一方で、日本の物価上昇はおぼつかない。10月のCPIは+0.2%と前年同期比で微増となったが、8月までは前年同月比でマイナスであったことから、デフレ状態に逆行したといってよい。デフレ基調は給与統計にも表れている。国税庁の「令和2年分民間給与実態統計調査結果」によれば、昨年のわが国における給与の平均は433万円と、前年比マイナス0.8%となっていた。
賃金が減少していることからすると、日本の経済状況はそこまで良い状況であるとはいえなさそうだ。この場合、通常であれば物価が減少することになるはずだが、主に輸入に頼っている食品や製品について物価上昇が避けられない環境に置かれている。このような需要によらない供給側の要因で起こる物価上昇は「コストプッシュインフレ」、通称「悪いインフレ」と呼ばれている。ちなみに、「良いインフレ」とは、消費者の需要が高まった結果発生する物価上昇「ディマンドプルインフレ」を指す。
20年2月には、当連載で日本のスタグフレーション入りを懸念する旨の記事を執筆したが(「円安・株安はなぜ起きた? 日本はもはや「スタグフレーション入り」したのか」)、ここにきてその懸念は増大しているといえるだろう。世界的な物価上昇基調と円安による供給コストの増大が、賃金下落状態の日本において物価上昇をもたらすスタグフレーションをもたらし、今後家計へのダメージが一層深刻化する懸念がある。
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