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謎マナー? ベンチャー人事の「給与・待遇にこだわる人と働きたくない」発言がここまで炎上したワケ働き方の「今」を知る(1/4 ページ)

» 2022年02月10日 05時00分 公開
[新田龍ITmedia]

 「給与や待遇にこだわりのある人とは働きたくない」と表明した、とあるベンチャー企業の人事担当者のSNS投稿が波紋を広げている。投稿直後から賛否両論が沸き起こり、人事界隈(かいわい)で局所的に物議をかもす程度で騒動が収束すると思われたが、大手メディアでも大々的に報道される「炎上」状態となってしまった。投稿者はこれまで毎日複数回の投稿を行うなど積極的に発言していた人物であったが、大きく話題となった元投稿の翌日、「あくまで私の意見、考え方」である旨の釈明を投稿したのち、本稿執筆時点(元投稿から1週間後)においても一切発言を行っていない状態だ。

 担当者個人の何気ない発言に対して、全国から何千件にも及ぶ批判や指摘が寄せられ、全国ニュースにもなるくらい騒がれるのはさすがにやりすぎではないか、との声も聞かれたが、元投稿には「炎上」に至ってしまいやすい要素が実に多分に含まれていた。今回は炎上の構図に加え、ベンチャーやスタートアップと呼ばれる界隈のメンタリティーとの親和性について解読していきたい。

画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ

「やりがい搾取」の典型例?

 人事担当者の元投稿は、

 「新卒採用担当を採用したいと思い、沢山の方にご応募いただいているのですが、給与や待遇にこだわりのある人とは働きたくないのです。。。私は、会社の顏となる人事だからこそ、待遇/給与で会社を選ぶ方と働きたいとは思わない」(原文ママ)

というものだった。そして指摘を受けて翌日投稿した釈明文には

 「沢山のご意見いただきありがとうございます! あくまで私の意見、考え方であって、人事部で共に働きたい人に求めている部分です。採用に携わる方は自分の目で、自分の価値観で見極めたい。価値観はそれぞれ違いますので、私が正解でもないしそれぞれの価値観がそれぞれの正解だと思っています。」(原文ママ)

と記されていた。確かに、自分と共に働くメンバーを選ぶうえで、自分の価値観と合致した人を求めるのは当然のことであるし、給与や待遇ばかりにこだわる人よりも、仕事のやりがいを重視し、組織のミッション・ビジョンを共通言語として目標を共に追える人の方が仕事をしやすいことは間違いないだろう。

 しかし、それはあくまで個人の価値観として、自分の心のうちに留めておくべきであった。実名と会社名を開示し、まして人事と名乗り共に働く仲間を採用したいという前提で発信している以上、本人の発言は会社組織自体の見解と同一視されることは避けられない。当然、担当者個人の見解を示すだけの意図であった元投稿も、会社のスタンスとリンクさせて語られることとなる。

 もし客観的に十分な額の報酬を用意している企業なら、高額給与だけを目当てとした応募者を排除するために「給与や待遇にこだわりのある人とは働きたくない」というけん制も有効かもしれない。しかし、実際に同社の求人情報を見る限り、そうはいえなかったのだ。

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