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謎マナー? ベンチャー人事の「給与・待遇にこだわる人と働きたくない」発言がここまで炎上したワケ働き方の「今」を知る(2/4 ページ)

» 2022年02月10日 05時00分 公開
[新田龍ITmedia]

 募集対象となっている人事部の正社員は「年収360万円〜500万円(年俸制、固定残業45時間分含む、超過分別途支給)」という条件であり、決して高額とはいえない水準であった。

 しかも、求める人物像に至っては「主体的に物事を考え、自ら率先して行動、提案できる方」「困難な問題が発生しても、粘り強く解決に向けて努力ができる方」といった要望が明示されており、この金額で求めるには相当ハードルが高いレベルと感じさせるものであった。

 まずこの時点で、「十分な報酬も支払えない会社が、その事実から目をそらすために『給与や待遇にこだわりのある人はNG』と苦し紛れなPRをしている」ように思われてしまうことは避けられない。これは「人事担当者個人の見解」という枠組みを超えて、「ベンチャーの肩書を免罪符に、低水準の報酬で高度な仕事ぶりを求める『やりがい搾取』を公然と宣言する」ように見えてしまうことにもつながる。

画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ

人事は権力者か

 またこの発言が、人事担当者によって発せられたことも批判が広がる遠因となったものと思われる。そもそも人事という職種自体、企業勤務者にとっては「権力を持った強者」かのように認識されているフシがあり、また求職者にとっては「自分たちを選ぶ立場であり、生殺与奪権を持った人たち」と見えてしまう。

 「強い立場の人」というだけでネット上においてはたたかれやすい(たたくことで留飲を下げられる)存在と見なされている上に、一般的に当の人事担当者本人にその自覚がないか、知らず知らずのうちに「自分たちが選ぶ側である」といった一種の傲慢さを持ち合わせてしまう。意識しないまま、発言や態度に表れる場合があり、そのような雰囲気も含めて批判される原因となるのだ(もちろん、今般の担当者がそのような人物だと断言しているわけではない)。

 特に今般のようなベンチャー、スタートアップ企業の場合、同質の価値観を持った人が集まりやすく、多少過激な表現であっても賛同や称賛を得やすい環境にあるため、「それを公式な立場で発言するのはまずいのでは」などと指摘できる人が周囲にいなかった可能性もある。

 さらには、担当者のこの発言に対して会社側が一切フォローを行っていない点も懸念材料だ。本来、このような炎上対応の王道は、すぐに投稿内容にまつわる事実関係を調査し、「世の中を騒がせた」点について取り急ぎ謝罪するとともに、投稿内容に不適切な点があったことについて、真摯(しんし)に反省している姿勢を伝えることである。特に今般のケースは企業全体の採用方針と待遇にまつわるものであるから、一従業員の責に帰することなく、「企業組織の問題」として取り組む姿勢を示すこともまた重要となる。

 しかし同社の場合、代表者も人事担当取締役も、本件に対して何らコメントを出していないばかりか、会社としても特段の声明を出していない(2月7日時点)、「完全スルー」状態だ。少なくとも、担当者の投稿がこれだけ取り上げられてネガティブな意味で話題になってしまう前に、「会社組織としての見解」だけでも示しておけば、ここまで波紋が広がることはなかったかもしれない。確かに、炎上対策として「無視」という選択肢もないことはないが、今般のケースにおいては「担当者が見殺しにされた」と捉えられるリスクもある。会社にとってはそちらの展開こそブランドき損につながる事態ともいえ、あまり好ましい対応とはいえないだろう。

「面接で待遇の質問はNG」という謎過ぎる“マナー”

 採用時に「給与や待遇にこだわりのある人」を避けたいという採用側の本音は理解できるが、そうしたことを表立って明言することは、その企業のモラルが疑われるご時世となりつつあるし、仕事はハードな反面、相応の待遇を用意しようとしない/できない「やりがい搾取」の会社なのではないか、と邪推されるまでになっている。長年ブラック企業問題に取り組んでいる筆者としては喜ばしいことだ。

 ここ数年、採用選考における「謎マナー」がやり玉に上がる機会が増えている。本連載の過去記事でも「内定辞退する際は、企業に訪問して直接伝えるか、手書きの手紙を送って礼節を尽くすべき」という謎マナーを批判したことがあったが、筆者が学生時代から根強く残っているキングオブ謎マナーといえば、「面接で待遇について質問するのはNG」というものだ。

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