【自動車メーカー7社決算】ものづくりのターニングポイントがやってきた池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

» 2022年02月14日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

ポイント1 円高が起きていない

 第3四半期決算のポイントは大きく分けて3つある。これまで物理法則か定理でもあるかのように繰り返されてきた「リスク発生時の極端な円高」が起きないばかりか、為替が円安基調で進行していることが1つ。

 これまでは有事の「円」状態で、世界経済に何かあると資産の逃避先筆頭に選ばれて暴騰を繰り返してきた円だが、どうも2021年に入ったあたりから様子が変わり始めた。むしろ円安へと進みつつある。一度下げた円は、3月からしばらく1ドル110円近辺で何となく均衡を保っていたが、秋口に再び円安が加速し114円あたりまで進んだ。各社の業績に対しては、企業努力ではどうにもならない外部影響ではあるが、各社の第3四半期決算は為替差益で大きく下駄を履くことになった。

 円の信認が下がることが、日本経済にとっていいことか悪いことかは程度問題であり、一概にはいえないが、プラザ合意以来示してきた絶対的信用がなくなったのだとすれば、それはそれで少し怖い話でもある。

 一方で、輸出で稼ぐ製造業にとっては大きな追い風であり、これに関しては日本製造・北米輸出が多いメーカーほど為替の恩恵が大きく、現地生産比率の高いメーカーはその恩恵が小さい。恩恵が強かったのはトヨタ、マツダ、スバルである。

トヨタの増益幅1兆239億円のうち、4450億円が為替の影響だ(トヨタ決算資料より)

 さて、まず上半期の流れを第3四半期でも引き継いでいる部分から説明しよう。需要に対する供給不足はそのまま。そして販売奨励金の削減もそのまま。宣伝広告費も低水準で困らない。これらは上半期同様に利益の押し上げ要因として働く。

ポイント2 部品不足がより深刻化

 では、第3四半期は何が違うのかといえば、不足する部品事情がより深刻化していることだ。オミクロン株の世界的蔓延で、操業停止になるサプライヤーが同時多発化し、いつどこでどれだけの部品が不足するかを先読みするのがより一層難しくなった。

 加えて、上半期までの流れで、部品も完成車も流通在庫を使い果たしたことで、急場を補うバッファを失った。さらに、ものづくりだけでなく、新型コロナの影響が物流領域にまで広がったことで、サプライチェーンの麻痺がさらに進行し、最早、部品不足がいつどこでどれだけ発生するかが読めなくなりつつある。

 その結果、予防的な対応が以前にも増して難しくなっている。こうした状況下で求められるのは不足部品に対する即応力であり、それが勝負を大きく分けることになった。

 この点で国内メーカーは多少有利である。東日本大震災によるサプライチェーンの毀損(きそん)以来、代替可能な部品のデータベース化が進んでおり、個別の部品が足りない場合、その埋め合わせが可能なサプライヤーの有無が、少なくともデータベース上では即時に判断できる体制が作り上げられた。

 しかしこのシステムがあるからといって、全てのリスクが回避できるわけではない。他で手配するといっても、部品はその生産難易度によって、適材適所で生産しており、それはつまり代替部品の生産も人件費水準が似たような国で作られているからだ。

 つまり、例えば東南アジアの物流が丸ごとチョークするようなことになれば、代替部品もろとも供給事情が悪化してしまう。

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