JTB、ピクシブ……異業種が“銀行”に 「エンベデッド・ファイナンス」(組込型金融)がもたらす未来日本の事例(3/3 ページ)

» 2022年02月22日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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日本型エンベデッド・ファイナンスの可能性

 このように、日本でも本格的なAPIやBaaS基盤を提供する金融機関およびプラットフォーマーが登場しており、具体的なエンベデッド・ファイナンス型サービスも稼働を始めている。GMOあおぞらネット銀行のichibarのように、エンベデッド・ファイナンスの発展を促すような取り組みも生まれており、諸外国のようにさまざまな形態のサービスが生まれてくると期待される。

 一方で、日本の成人における銀行口座保有率はおよそ98%に達しており、いわゆる金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン:人種や社会階層といった社会的な特徴に関わらず、誰もが金融サービスにアクセスでき、その恩恵を受けられるようにすべきだという概念)という点では、一定のニーズは既に満たされているといえる。

 よくいわれるような、日本における現金主義の定着やキャッシュレス化の遅れについても、高度な金融サービスが普及していないからというよりも、治安の良さやATM普及率の高さといった要因が理由の一つとなっている。つまり、誰もが「これこそまさに足りなかったものだ」と感じ、すぐに大きな需要が生まれるような新種の金融サービスは、日本においては生まれにくい状況だといえるだろう。

 そう考えると、日本ではいくつかの実験的な取り組みや、金融機関にとってリスクの少ないサービス(他社のアプリ内で自社顧客の口座明細を表示可能にするなど)は生まれるものの、極めて革新性の高いエンベデッド・ファイナンス型サービスは誕生しにくい状況にあるかもしれない。

 とはいえ、日本社会が金融サービスに求めるものも、時代とともに変わりつつある。例えば、超高齢化社会になり、一人暮らしをするお年寄り(高齢で認知機能が衰えている可能性もある)が金銭面で安心して生活を続けられるかという懸念が次第にクローズアップされるようになってきている。「ファイナンシャル・ジェントロジー」(金融老年学)という、「高齢者が身体だけでなく、金銭面でも健全な老後を送れるための要素を考える研究分野」も生まれている。

 いまは需要として小さかったり、具体的なサービスへのニーズという形で具現化していなかったりしても、そうした変化がエンベデッド・ファイナンス型サービスを求める声となってゆくだろう。

 日本型のエンベデッド・ファイナンスがどのような形を取るのか――その答えは、金融という存在に対して、日本社会が何を求めるのかを考えることから見えてくるかもしれない。

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