JTB、ピクシブ……異業種が“銀行”に 「エンベデッド・ファイナンス」(組込型金融)がもたらす未来日本の事例(2/3 ページ)

» 2022年02月22日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

ふくおかフィナンシャルグループが手掛ける「みんなの銀行」

 21年5月、「国内初のデジタルバンク」をうたう「みんなの銀行」が開業した。立ち上げたのは、地方銀行として最大手のふくおかフィナンシャルグループである。ふくおかフィナンシャルグループは傘下に福岡銀行や熊本銀行などがあるが、ネットに特化した銀行として開設されたのがみんなの銀行だ。

 デジタルバンク、すなわちデジタル銀行とは、物理的な店舗を設置せず、スマートフォンのアプリなどを通じて、預金や送金といった通常の銀行が提供している各種サービスを電子的に提供する銀行と定義されている。もちろん口座開設もオンライン上で可能だ。

 これまで日本でも、「ネットバンク」などの名称で、既存の銀行がインターネットを介してサービスを提供するケースは存在していた。しかし完全にデジタルに特化しているという点で、みんなの銀行は「国内初」を掲げたわけである。

 みんなの銀行はBaaS型サービスとして、その名も「Minna no BaaS」を展開している。こちらもAPIを通じて提供される予定の金融機能は、預金や決済、与信など幅広い。

 既にこのBaaS基盤を活用して、エンベデッド・ファイナンス型サービスが実現されている。漫画やイラストなどに特化した画像共有サイト「pixiv」との間で開設されたのが、みんなの銀行ピクシブ支店である。

 これは文字通り、pixiv内に設けられた銀行サービスという位置付けで、スマートフォンアプリ上でいつでも口座開設が可能だ。この口座はpixiv内で発生する売上金の振込先として登録でき、もちろん通常の銀行口座として使用できる。

 pixivを運営するピクシブは、サービス設立に関するプレスリリースで「pixivユーザーはピクシブ支店に口座を開設することで、pixiv関連サービスの利便性が向上し、創作活動の幅が広がります」と説明し、より創作がしやすい環境が実現されるとしている。今後も、みんなの銀行が公開を予定しているAPIを通じて、pixivのサービス上でシームレスに金融サービスが利用できる仕組み作りの検討を進めるとしている。

 21年10月には、パーソルテンプスタッフとの間で同様の「支店」が開設され、「テンプスタッフ支店」として稼働が始まっている。こうした取り組みを通じて、みんなの銀行は既に20万以上の口座を獲得することに成功している。その取り組みは業界内で評価を得ており、22年1月には、東京きらぼしフィナンシャルグループが、デジタル銀行となる「UI(ユーアイ)銀行」を開設して追随した。

 金融グループがネットに特化した新たな銀行を設け、そこをBaaS基盤としてエンベデッド・ファイナンスの拡大を目指すという構図が、今後一つのパターンとして定着するかもしれない。

GMOあおぞらネット銀行の「かんたん組込型金融サービス」

 GMOフィナンシャルホールディングスが共同出資するGMOあおぞらネット銀行が展開しているのが、その名も「かんたん組込型金融サービス」だ。文字通り、顧客企業が手軽にエンベデッド・ファイナンスを実現するために用意されたサービスで、GMOあおぞらネット銀行から提供される「銀行パーツ」を組み込むことで、サービスユーザーが「銀行機能を組み込んだデジタルサービス」を実現できるとしている(図3参照)。

photo (図3)GMOあおぞらネット銀行が展開する「かんたん組込型金融サービス」(GMOあおぞらネット銀行Webサイトより抜粋)

 同サービスのWebサイトによれば、現時点で開設されているAPIの数は、無償のものが5カテゴリー25種類、有償のものが4カテゴリー7種類となっている(さらに顧客の要件に合わせてカスタマイズしたAPIも開発可能としている)。

 こちらも実際に、提供されるAPIを活用したさまざまなエンベデッド・ファイナンス型サービスが生まれている。例えば、旅行会社のJTBと取り組んだ事例では、同社が開設した「ふるさとコネクト」というWebサイトにおいて、GMOあおぞらネット銀行の振込入金口座と、参照系・更新系のAPIが使用されている。

 ふるさとコネクトは企業版ふるさと納税(国が認定した地方公共団体の地方創生事業に対して企業が寄付を行った場合に、一定割合で寄付額が軽減される仕組み)を支援するサービスだ。Webサイト上で企業からの寄付を受け付けている。

 その際、企業が銀行振込を選択すると、APIを通じてGMOあおぞらネット銀行から振込入金口座が発行される。そして企業が振り込みを行うと、その内容がAPIを通じてJTB側に提供され、入金完了を把握できる仕組みだ。さらに自治体への寄付金の振り込みも、APIを通じて自動化されている(図4参照)。

photo (図4)「ふるさとコネクト」で活用されているGMOあおぞらネット銀行のAPI(GMOあおぞらネット銀行Webサイトより抜粋)

 さらにGMOあおぞらネット銀行の取り組みとして興味深いのが、21年8月に発表された「ichibar(イチバー)」だ。これは「組込型金融マーケットプレイス」と銘打たれたサービスで、文字通り「部品」となるさまざまな金融機能を取引できるサイトとなっている。

 このマーケットプレイス機能では、GMOあおぞらネット銀行のサイト、もしくはAWS Marketplaceを通じて、「決済や給与前払いサービス等の資金移動に関係するアプリケーションや、データ、コンサルティングサービスなど、銀行機能を組み込むことができるもの」であれば何でも出品できるとされている。

 システム開発企業だけでなく、学生や起業家などエンベデッド・ファイナンスに関するアイデアを持つ誰もが参加可能であり、関連アプリケーションといった部品を出品・販売できるようになっている。GMOあおぞらネット銀行のプレスリリースによれば、国内銀行が自社のサイトおよびAWS Marketplace上で、ソフトウェアやデータなどを流通させるマーケットプレイスの取り組みは「国内初となる」とのことだ。

 エンベデッド・ファイナンスはまだまだ発展途上の概念であり、それに取り組む参加者が増えることで、よりユニークなアイデアやサービスが生まれてくるだろう。その意味でマーケットプレイスという場を設けることは、参加者の拡大だけでなく、エンベデッド・ファイナンスの進化に大きく貢献するに違いない。

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