1月23日の日経新聞朝刊で、某大手企業の人事政策について紹介する記事が目を引いた。出向や社外での副業といった「従業員の外部での経験」を、課長に昇進するための前提にするという。出向や副業などで得た知見や人脈を社内で生かし、新たな事業の開発を促すことを企図した施策らしい。
記事では「主力事業の成長が頭打ちになっており、多彩な人材の育成や外部との連携強化が課題」と説明していた。大企業において、管理職の昇進に外部経験を課すのは珍しい。DXが進行する一方で、コロナ禍により、今までとは異なる働き方の模索がなされる現代を如実に反映した施策であるという感想を抱いた。
大企業が大企業である所以(ゆえん)は、規模の大きさとそれに呼応する人材の多彩さである。大企業はその業界の勝ち組であり、ノウハウや新しいビジネスのアイデアを内部に囲い込みこそすれ、外部との連携は基本的に行わないのが常である。しかし、人材の宝庫であっても、今の世の中は変化が速すぎて、新しいビジネスのアイデアが社内から出にくくなっているのだ。私は以前のコラムで、「DXが進行する過程においては、ビジネスの性質が全く変わってしまうため、過去の経験をベースにした一次関数の直線の先に、将来を描くことが難しくなっている」と書いた(参考記事:ASEANでモテモテだった日本の企業 その将来に漂う暗雲)。
スマートフォンを例にしよう。スマホの登場で、コミュニケーション手法、エンターテインメントの範囲、メディア・広告の在り方、金融の利便性などが劇的に変化した。DXの進行によるビジネスの変化の大きさを比喩的に表現するなら、未来が指数関数の曲線の先に出現するようになったということだ。急勾配の曲線の先にある事業環境の予見は難しくなり、社内に蓄積したノウハウや英知を持ってしても、新しいビジネスモデルの構築が困難になっているのである。その意味で、DXの時代において従業員に外部との接触を持たせることは、新しい視点を持ちイノベーションを起こすために必然の取り組みといえるだろう。
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