売却はそごう・西武にとどまらず? イトーヨーカ堂に迫る魔の手と、カギを握るスーパーどうなるセブン&アイHD(2/4 ページ)

» 2022年03月01日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]

 00年前後の金融危機は、バブル景気に乗って過大な店舗投資、過剰な多角化投資を行っていた多くの流通大手企業の資金繰りを破綻に追い込んだ。表は1995年度の小売業売り上げランキング上位で経営破綻や経営統合に至った企業をマーキングしたものだが、ベスト20内企業の内、破綻が6社(ダイエー、マイカル、西友、西武百貨店、そごう、長崎屋)、経営統合に踏み切った企業が7社というすさまじい大再編時代であったことが分かるだろう。

日経小売業調査1995年度版を基に筆者が作成。10年以内に再編があった企業を網掛けしているとともに、10位以下は破綻・統合企業のみを記載。参考として、当時のそごう(中核4社合計)も入れている

 この大再編をへた後、小売の業界地図はイオン、イトーヨーカ堂(+セブン‐イレブン)の2大流通企業が覇を競うという構図が明確になった。イオンはダイエー、マイカルを始めとする破綻スーパーを次々と傘下に収め、地方を中心に総合スーパーを核とする大型モールを展開して勢力拡大を進めていった。セブン&アイHDは総合スーパーの拡大ではなく、そごう・西武という百貨店大手を傘下とし、総合的業態を拡張した。この時点で、業界の再編の受け皿となることができたのは、2大流通企業となっていたイオンとセブン&アイHDのみであり、大手百貨店など他の大手流通企業は、経営統合して生き残るのがやっとだった。

池袋・横浜など主要店舗は善戦したが……

 そごう・西武が、セブン&アイHDの傘下に入った時点だと、07年2月期は営業収益9883億円、営業利益267億円(利益率2.7%)と百貨店大手クラスとしての業容が十分に整っていた。この時点において、そごう・西武はリストラも完了しており、今後の回復基調を想定してもおかしくはない。しかし、その後の想定以上の百貨店市場の縮小が続いたこと、特に地方、郊外の百貨店マーケットの落ち込みは厳しく、そごう・西武は不採算店処理に追われて、期待通りの成果を出せなかった。

 図表は07年と最近の店舗別売り上げをまとめている。今残る主要店とされる店舗の売り上げはほとんど変わらないか増えていることが分かる。(増床改装投資があってではあるが)そごう・西武のこの間の売り上げの落ち込みは主要店以外の店舗の整理による。その意味では、池袋、横浜をはじめとする主要店は優秀な店舗だといえるのだろう。

セブン&アイHDのIR資料を基に筆者が作成

 とはいえ、コロナ後に大都市の人流やインバウンド需要の回復もいつどの程度に戻るのかが見通せない今、そごう・西武の10店舗を全て百貨店として引き継ぐ事業会社はいないだろう。日本有数の鉄道ターミナル立地、かつ、トップクラスの売場面積を備えた池袋、横浜ならまだしも、それ以外の店を、自信をもって百貨店として運営出来そうな企業名が思い付かない。これから事業の引受先がどこになるかが関心の中心となるのだろうが、ファンドが1次取得して、店舗ごとに適正な運営業態を提案する企業に個別に交渉していく、という可能性が高いだろう。

 しかし、投資家の関心はもはやそこにはなく、売却すべきは百貨店だけではなく、もっと本丸についての戦略を示すべきだ、という方向に変わっている。具体的には、セブン&アイHDの祖業にあたる総合スーパー、イトーヨーカ堂に関しての「戦略的選択肢」が求められているということだ。

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