売却はそごう・西武にとどまらず? イトーヨーカ堂に迫る魔の手と、カギを握るスーパーどうなるセブン&アイHD(3/4 ページ)

» 2022年03月01日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]

 1ページの図表では、百貨店が右肩下がりの中、スーパーストア事業は横這いのように見えたかもしれない。この部門の収益は総合スーパー+食品スーパーの合算であり、イトーヨーカ堂だけではなく、食品スーパーのヨークベニマルという“孝行息子”が着実に業績を伸ばして部門を支えているため、維持されているにすぎない。

 イトーヨーカ堂の業績を時系列にすると、次のようになっている。

同前(単位:億円)

 売り上げこそ1兆円以上あるものの、長い間右肩下がりで、営業利益率は1%未満が続く。とてももうかっている、とはいえない状態が続いているのだ。グループで改善努力を続けているが、根本的な出口は見えていない。今回の投資家からの指摘は、百貨店部門のみを対象としているわけではなく、イトーヨーカ堂こそがメインターゲットであるといってもいいだろう。

 しかし、イトーヨーカ堂に関しては百貨店のように売却、といった出口はあり得ないと見ている。それは「祖業だから」という理由ではなく、国内最大級の食品供給チャネルであるセブン&アイグループとして、イトーヨーカ堂の食品部門まで放棄する理由がない、と考えるからである。

 21年2月期時点のグループの国内食品流通額は、セブンイレブン3兆3315億円(チェーン総食品販売額売り上げ)+イトーヨーカ堂5171億円+ヨークベニマル4298億円(食品売り上げ+ライフフーズ)+ヨーク(ヨークマート運営会社)1822億円=合計約4兆4600億円とざっくり計算できる。ライバルのイオンが5兆円程度(総合スーパー部門1兆7000億円、食品スーパー部門3兆2000億円、ヘルスウェルネス部門2300億円、あくまで筆者推計)と想定すれば、イトーヨーカ堂の食品売り上げは他社に渡しがたい重要なチャネルであることは明らかだ。

 さらにいえば、今後人口減少が続く国内市場において、市場規模を長く維持することが見込まれるのは首都圏である。セブン&アイHDのIR資料によれば、イトーヨーカ堂、ヨーク、シェルガーデンの20年度首都圏売り上げは5943億円である。この基盤は、今後も重要であり、強化していくべき事業であることはいうまでもあるまい。

出所:イトーヨーカ堂公式Webサイト

 セブン&アイHDの中期経営計画を踏まえると、これまでもイトーヨーカ堂の方向性は食品強化と商圏に合わせた館づくり(テナントミックス改善)と明示されている。店舗網を活用して食品販売の強化を進めつつ、停滞する非食品売場を適正なテナントミックスに入れ替えるというものだが、この方向性を加速することで株主からの指摘に応えていくことになるだろう。中計が示すグループの共通インフラの構築においても、首都圏におけるイトーヨーカ堂食品事業の存在は不可欠なのである。

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