売却はそごう・西武にとどまらず? イトーヨーカ堂に迫る魔の手と、カギを握るスーパーどうなるセブン&アイHD(4/4 ページ)

» 2022年03月01日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]
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 イトーヨーカ堂の食品シフトと非食品のテナント化は、これまでも方向性としては示されていたが、外から見れば緩慢に見えた。さまざまな内部事情もあったのだろうが、現経営陣は株主からの改善圧力という外圧を前向きに活用して、あるべき方向性への変化を加速させるだろう。スーパーとしての食品強化に関しては、グループ内にヨークベニマルという業界屈指の有力スーパーもある。首都圏の住民にはあまりなじみがないかもしれないが、ヨークベニマルの食品売場構成力は、業界各社が一目置く水準であり、仮に首都圏の食品売り場がヨークベニマルだったら――と想像すると、その競争力は飛躍的に強化されることが目に浮かぶ。

 個人的な話をすれば、かつて全国の食品スーパーを訪ねて回るような仕事をしていた時期がある。その際、ベニマルの売り場は店内を一周すると、「今日の夕食はこれが食べたい」と自然に思わせてくれる提案力があり、すっかり感心してしまった数少ないスーパーの一つだった。セブン&アイグループの中核は、国内の覇者であり、海外にも展開していけるセブン‐イレブンなのではあろうが、ヨークベニマルという一見地味な地方スーパーは、これからのイトーヨーカ堂の反撃に重要な役割を果たしていくことになるだろう。

 昨年末、業界で話題となった関西スーパー争奪戦に参戦したオーケーは、コストパフォーマンスを武器に、首都圏16号線内側で急成長した食品スーパーだ。なぜ、16号線内側をターゲットにしていたかといえば、外側はヤオコー、ベルク、ベイシアといった強力な郊外型新興勢力がせめぎ合う厳しい競争環境であったため、そこは後回しにしたのである。

 空地が少なく新規参入が少ない16号線内側は、コスパに定評あるオーケーから見れば強敵が少なく、連戦連勝で成長できた。イトーヨーカ堂もこれまではずいぶん顧客を奪われてきた側であったと思われるが、ヨークベニマルが相手だったら、オーケーといえどもそうやすやすとシェアを奪うことはできなかっただろう。それどころか、首都圏の駅前一等地をおさえているイトーヨーカ堂の食品売り場がヨークベニマルになったと仮定すれば、セブン&アイHDの食品売り上げは大きく拡大する可能性がある。22年初頭のアクティビストの書面が発端となって、食品特化したセブン&アイHDのスーパーストア事業は、首都圏において盤石の基盤を築くことになったのである――10年後にはこういわれているかもしれない。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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