東京オリパラに関する総括はどうした何を検証すべきか(3/5 ページ)

» 2022年03月02日 07時22分 公開
[日沖博道INSIGHT NOW!]
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 さて、こうなると唯一まともに残った「期待効果」は、インフラ整備によるその後の資産化、いわゆるレガシー効果くらいである。しかし単に施設をどんどん新設すればよいという「土建屋経済」的発想は今の成熟社会にはなじまない。この機会に整備した施設をいかにその後フル活用できるようにあらかじめ考えていたかが問われる。

 この点では、元々東京オリパラでは「既存施設をうまく活用することでの資産効率化」といった概念があったので、ある程度は意識されていたはずである。しかし結論的にはかなり厳しい点数を付けざるを得ない。建設費の高騰で会場整備計画は何度も見直されたが、グランドデザインに欠けた、その場しのぎに終始したものが多かった。その象徴が国立競技場だ。

 今回、東京オリパラに合わせて建て替えが宣言された新国立競技場は当初、国際的に高名なザハ・ハディド氏に発注したが、結局はあまりに高額な建築費に非難が高まった挙句、デザイン変更案などを経て(巨額の違約金を伴う)キャンセルに至ったことは周知のとおりだ。そもそも誰がどういう責任を以て「アンビルトの女王」の通り名を持つ同氏に発注しようとしたのか、この巨額な「カネをどぶに捨てる」行為の責任を誰がどう取ったのか、さっぱり不明だ(これがニッポンのメディアの追求の中途半端さを象徴している)。

 その後、新たに採用された隈研吾氏の木と竹を生かした建築設計は和のコンセプトに基づく非常に素晴らしいものだった。しかしザハ・ハディド案の高コストへの非難の高まりに恐れをなしたか、再設計プランのRFP(企画要求)は構造的に開閉式屋根を採用せず、実現された新国立競技場は全天候対応施設ではない。おのずとこの施設で開催できるイベントは限定され、全天候対応施設に比べ収益力は雲泥の差だ。この例は、経営感覚が欠如した「官」が主導するインフラ整備によるレガシー効果の欠陥を象徴している。

 一部、有明アリーナのように民間委託を梃子にまともな収益計画を練っている例も散見されるが、大半の新設施設は「作ればおしまい」という旧来の発想に囚われたままに見える。今後、東京都をはじめとする自治体はそれらの施設の維持管理費に苦しめられるのが目に見えている。

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