英国の石油大手であるシェルは、8日に世論の批判を受けてロシアから完全撤退することを発表した。シェルは三井物産などと共同で石油天然ガス「サハリン2」の開発に取り組んでいたが、国際社会が原油の貿易を凍結する方向で足並みをそろえている中で、ロシアから石油を購入することがイギリス国民の目には「敵に塩を送る」という形で映ったのかもしれない。
ただし、企業は違法行為に手を染めているわけではない以上、ロシアとの関係を有しているからといって直ちにバッシングすることはやや度が過ぎているともいえるのではないだろうか。米国のシンクタンクであるD&Bによれば、ロシア企業と取引する企業は世界に761万社ほど存在するとされている。シェルだけでなく、数多くの企業がロシアと取引を続けている点は冷静に認識しておきたい。
日本でもJTや「丸亀製麺」を運営するトリドールホールディングス、そしてサハリンで石油天然ガス開発事業を営む伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、丸紅といった有力企業がロシアとの取引を継続している。
これらの企業は積極的にロシアと取引関係を持つというよりは、事業停止などの措置について判断を見送っている状況で、いまのところは事業を継続しているという消極的なものだ。しかし、国内でも取引継続について異論が噴出すれば、これらの企業が取引を停止することは想像に固くないだろう。
なぜ、これらの企業は判断を先送りにするのだろうか。それはこの種の問題が、「進むも地獄、戻るも地獄」といった状況に陥りやすいことにあるためだ。ある国の事業を停止したり、そこから撤退したりすれば、その分だけその会社の業績が下がるというデメリットがある。だからといって、事業を継続すれば、シェルのように自国民からやり玉にあげられ、最終的には撤退を余儀なくされるという懸念もあるのだ。
ただし、飲食や動画配信といったサービス業の撤退・事業停止が企業イメージを向上させられるかは疑問が残る。なぜなら、この種のサービスが撤退することは、「ロシア政府への抗議」というよりも「ロシアにいる民間人への攻撃」という側面が色濃く現れてくるからだ。
もちろん、これまで利用できていたサービスが縮退し、民間人の生活に支障がきたされることでロシア国内での反戦感情が高まるといった効果も期待できるかもしれない。その一方で、ロシアの民間人も外国企業から狙い撃ちされていると感じ、むしろ国民感情を逆撫でするリスクもあると考えられる。
近年では投資の方針としてESGやSDGsという持続可能性に注目した理念が普及しつつあるが、はたして「戦争を仕掛ける国に住んでいる民間人も同罪として、サービスを供給しない」ことが持続可能性ある社会の実現につながるのか。それとも「戦争を仕掛ける国に住んでいる民間人には罪がないとしてサービスを供給する」方が持続可能性がある社会を実現できるのか、今一度考えてみたい。
もっとも、ウクライナ危機が他国を巻き込んだ全面的な戦争となれば、このような考え方は「呑気なこと」として唾棄(だき)されることになるのかもしれない。
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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