社員9人で米ナスダック上場 日本のベンチャーWarranteeが進める“無料保険”とは何か金融ディスラプション(2/3 ページ)

» 2022年03月15日 07時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

保険提供の文脈で跳ね上がる、個人情報の価値

 個人情報保護法の施行以来、個人情報の重要性は広く認識されてきた。しかし、名簿リストというような形ではなく、適切な相手に、適切な文脈で渡された場合、その価値は極めて高くなる。

 メディカル系スタートアップや製薬会社が、病院の先生に売り込みをかけたい場合を考えてみよう。単なる名簿情報でも連絡を取ることはできるが、医師からするとよくある売り込みの一つにすぎない。

 ところが、「医療機器の故障保険を無料で提供します。代わりにスポンサーに連絡先をお伝えさせてください」という話ならばどうか。医師からすると、壊れたら修理費が1000万円くらいかかるところをサポートしてもらえる。先生は気持ちの面でも、ありがたいと感じ、そのスポンサーから営業を受けても一定の好意が得られるだろう。営業をかける側からすると、保険という文脈の下で、この個人情報は極めて価値が高いものになるわけだ。

 フリーインシュアランスが活用できる領域は広いが、現時点では高単価でニッチなものに注力する計画だ。医療や健康分野はもちろん、例えば高級車市場における自動車保険なども視野に入る。

 例えば、ベンツ車オーナー向けの自動車保険を、レクサスのディーラーがスポンサーとなって提供したらどうだろう。オーナーは無料保険を断る理由はない。そしてレクサスディーラーは保険提供という恩義付きで、潜在顧客へアプローチできるようになる。

正確には保険ではない

 実はこのフリーインシュアランスは、法的には“保険”ではない。保険業法では保険の定義を「人の生存又は死亡に関し一定額の保険金を支払うことを約し保険料を収受する保険、一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約し保険料を収受する保険その他の保険」としており、いずれも「保険料を収受」することが保険の前提条件になっている。

 フリーインシュアランスは、保険料を受け取らないので、保証の提供ではあっても厳密な意味での保険ではない。そのため、保険業法の制約を受けず、金融庁の管轄からも外れる。

 保険は割引が基本的に禁止されていたり、広告宣伝のやり方にも厳しい制約が付いたりと非常に規制が厳しい。保険業の申請も必要になる。ところがフリーインシュアランスの場合、保険ではないので、例えばSNSの活用やYouTuberを使った広告も可能だ。この柔軟性が、フリーインシュアランスの特徴の1つとなる。

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