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導入済はわずか1割未満 6割が「必要なし」 日本企業がスルーして損しがちな「メリットだらけの制度」とは5つのメリット(4/4 ページ)

» 2022年03月16日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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 一方、組織構造上の阻害要因(1)〜(3)の全てに当てはまる会社は、導入障壁が高いといえます。しかしその分、導入すれば大きなメリットを享受できる可能性があります。組織構造上の阻害要因は会社が抱える体質上の課題と密接に結び付いているからです。勤務間インターバル制度導入を通じて、上記5つのメリットだけでなく、会社の体質改善まで実現できるかもしれません。

 無理ありきで業務設計している会社の社員は、疲労を積み重ねやすい環境に置かれています。無理することが前提ですからサービス残業なども行われやすくなり、むしろそれが美徳として捉えられる風土が生まれがちです。中にはその負荷を糧にして成長する社員もいるかもしれませんが、得てして社員は長続きせず、退職しては補充するというむなしい悪循環を生み出します。

 その結果、補充する都度、採用コストがかかり、そのたびに新しい社員を迎え入れて教育する負荷も上乗せされます。そうして社員たちに蓄積した疲労は、やがて会社全体を疲弊させていきます。

 また、労働時間が長ければ長いほど給与が増えて評価されるような会社は、生産性を上げようというインセンティブが働きません。早く仕事を終わらせても、「他のみんなは頑張って遅くまで働いてるんだから、キミも手伝いなさい」と新たな仕事が振られるなど、職場内に帰りづらい雰囲気が醸成されます。それなら他のみんなとペースを合わせてゆっくり仕事していた方がラクだ、と“右にならえ”をして、怠慢社員が次々に生み出されてしまいます。

 そして、何事も前例ありきで動く会社は、新しい制度をなかなか取り入れません。環境の変化が緩やかな時代であれば、石橋をたたいても渡らないほどの慎重さが武器になることもあり得ます。しかし、変化スピードが速い時代においては市場の中で取り残され、他社との競争に負け、何とかしようと思うころには取り返しのつかない状況に陥っている可能性があります。

 組織構造上の阻害要因全てに当てはまる会社が勤務間インターバル制度を導入するには、こうした体質上の課題と向き合う必要があります。難易度が高い取り組みには違いありませんが、制度導入をきっかけに会社の体質改善まで実現できれば、その価値は先に挙げた5つのメリット以上になるかもしれません。

いずれは法制化も十分あり得る

 ここまで見てきたように、勤務間インターバル制度の導入にはさまざまなメリットがあります。本当に「導入する必要性を感じない」のか、よく考えてみていただきたいと思います。「メリットは感じるが、どうやって導入すればいいのか分からない」という場合は、「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」がまとめた報告書を参照するのもよいでしょう。制度導入の手順や、突発的なトラブル対応といった適用除外の例など、運用のためのノウハウが記されています。

 今は努力義務にとどまる勤務間インターバル制度ですが、世界の動向や働き方改革の流れを踏まえると、いずれ法律で義務化されてもおかしくありません。そうなれば強制的に導入せざるを得ず、珍しくもなくなります。95%の会社が未実施の今、先手を打って導入しても損はないはずです。

著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)

ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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