ドル円は年明け以降、おおむね1ドル=114円〜116円を中心とするレンジ内で推移していましたが、3月11日にドルの上値抵抗線として意識されていた116円35銭水準を上抜けると、ドル買い・円売りの動きが一気に加速しました。ドル円は3月22日に2016年2月以来、約6年1カ月ぶりに121円台を回復し、翌23日には121円41銭水準までドル高・円安が進行しました。
ドル高要因としては、3月15日、16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)がかなりタカ派的な内容となり、パウエル議長も3月21日に5月のFOMCで0.50%の利上げを行う可能性を示唆するなど、一段の米金利先高観が形成されたことがあげられます。一方、円安要因としては、3月17日、18日開催の日銀金融政策決定会合で、緩和継続が確認されたことや、日本の貿易赤字が定着しつつあることがあげられます。
このように、足元では明確なドル高・円安材料がみられますが、以下、今後のドル円相場の方向性について考えてみます。改めて、フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込む利上げ回数(0.25%の利上げ回数)を確認すると、3月23日時点で2022年が約8.5回、2023年は約2.0回となっています。2022年はあと6回のFOMC会合が予定されており、5月と6月の会合で0.50%の利上げが見込まれている状況です。
仮に市場の織り込み通り、来年までに0.25%の幅で約10.5回の利上げが実施された場合、FF金利の誘導目標は2.75%〜3.00%を超えることになります。なお、3月16日に公表されたFOMCメンバーが適切と考えるFF金利の長期均衡水準は2.375%でした。市場の利上げ予想は、すでにこの水準を大幅に上回っているため、ここからよほどインフレ懸念が強まらない限り、米長期金利上昇とドル高の余地は大きくないと思われます。
また、ドル円相場の過熱感を判断するオシレーター系チャートの1つである「RSI(相対力指数)」をみると、3月23日時点で84.1%と、(ドルが)買われ過ぎとされる70%水準を大きく超えており(図表1)、目先はドル安・円高方向の調整が入ってもおかしくはありません。ただ、通貨先物の投機筋ポジションは、まだ昨年秋口ほどの円売り越しには至っておらず、まだ円売り余力があるとみられます(図表2)。
弊社は2022年4月から12月までの期間におけるドル円の上限について、3月22日に122円から125円に引き上げました。短期的に120円を超えるドル高・円安は、やや行き過ぎと思われ、いったん調整も見込まれます。しかしながら、前述の通り、日本の貿易赤字が定着しつつあることを踏まえると、中長期的には需給面で円売り圧力が強まることも想定され、緩やかにドル高・円安が進む公算は大きいと考えます。
旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。
© 三井住友DSアセットマネジメント
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