新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の感染拡大に対する警戒感から、11月26日の金融市場では、広くリスクオフ(回避)の動きがみられました。日米欧など主要国の株価指数は軒並み下落し、ドイツ株式指数(DAX)やフランスCAC40指数の下落率は4%を超えました。また、WTI原油先物価格は前営業日比10ドル24セント(13.1%)安の1バレル=68ドル15セントと、70ドルを割り込んで取引を終了しました。
こうしたなか、米国の利上げ観測も後退し、フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込む2022年の米利上げ回数(0.25%の利上げ回数)は、前営業日の2.8回から2.1回に低下しました。米10年国債利回りも前営業日から約16ベーシスポイント(bp、 1bp=0.01%)低下し、1.47%台で取引を終え、ドル円は一時1ドル=113円05銭までドル安・円高が進行しました。
足元では、オミクロン株の感染が広がっています。これまで、南アフリカ、ボツワナ、香港、イスラエルで感染が確認されていましたが、日本時間午前7時30分現在、イギリス、ドイツ、ベルギー、イタリア、オランダ、デンマーク、オーストラリア、チェコ、カナダでも確認され、感染は13の国と地域に広がっています。また、フランスでも感染の疑いのある症例が報告されています。
感染の急速な拡大を受け、イスラエル政府やオーストラリア政府などは水際対策を強化しています。日本政府も対策に取り組んでおり、現在、南アフリカなど9カ国からの入国者に対しては、検疫所が用意した施設で10日間の待機を求めています。また、国立感染症研究所が11月28日、オミクロン株を最も警戒レベルの高い「懸念される変異株(VOC)」に指定したことで、今後はオミクロン株の検査態勢が強化されることになります。
オミクロン株について、現段階ではまだ不明なところも多いのですが、既存のワクチンが効きにくく、感染力はデルタ株よりも強いとの見方もあります。ただ、すでに欧米のワクチンメーカーは、既存のワクチンの有効性について検証に取り組んでおり、米ファイザーと独ビオンテックは、有効性が確認されない場合、100日以内に新しいワクチンの供給を始めると報じられています。
11月26日の世界の金融市場は、感染拡大について、かなり悲観的なシナリオを一気に織り込んだものと推測されます。したがって、ここからはオミクロン株の実際の感染状況や、各国の政策対応、ワクチンメーカーの検証結果などを見極める時間帯となり、リスクオフの動きが一旦小休止することも想定されます。なお、悲観シナリオの実現性が高まった場合、流動性相場が維持されるため、これまでのように、株安の度合いは一定程度、軽減されることが期待されます(図表)。
旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。
© 三井住友DSアセットマネジメント
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