クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

グローバル化からブロック化へ 世界のものづくりの大きな転換点池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

» 2022年03月28日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

国際分業に大ブレーキ

 とはいえ、冒頭に書いた国際分業が成立する仕組みは、世界が平和であってこそ。そこに最初に激震を与えたのは、新型コロナの蔓延で、人流と物流が止まって、国際分業に大ブレーキが掛かったことだ。

 経済力とそれに裏打ちされた保健衛生政策の差によって、弱小国での部分的なロックダウンが始まると、1台のクルマを作るために必要な部品の確保ができなくなっていく。それどころか、一国がダウンすると、ドミノ倒しのように全ての国に被害が及ぶ。平時の効率化に特化して緻密な分業を成立させていたことが徒となり、部分のトラブルが全部に影響してしまうことになった。

 そこに加えて、ウクライナ危機である。特にロシアと接する旧東側経済圏の長期リスクは跳ね上がる。ウクライナの決着次第では、ポーランド、スロバキア、ハンガリーが、最前線になってしまうわけだ。

 工場投資ともなれば、回収までに30年規模の投資である。これらの国々の安保リスクについて30年先までの見通しを立てろといわれて、断言できる人間はどこにもいないだろう。

ウクライナ侵攻の生産への実影響

 そもそもウクライナとロシアという当事国そのものもグローバルエコノミーに組み込まれていたので、すでに実害が出始めている。3月7日のJETROの発表から抜き出してみる。

 欧州自動車部品工業会(CLEPA)によると、ウクライナでは主に西部に自動車産業が集積し、欧州から7社が配線やケーブル生産工場を持っており、既にフォルクスワーゲンとシュコダが自社の生産に短期的に影響が出ると発表している。また、ロシアにはルノーやステランティスを含め、世界の主要自動車メーカーの組み立て、生産工場が34カ所あり、欧州からも30社以上の部品メーカーが生産拠点を持っている。ロシアの自動車生産は国外からの部品供給に大きく依存しており、EU部品業界にとって同国は第5位の輸出先となっている。

 欧州への原材料供給について、CLEPAによると、ウクライナはEUにとって鉄鋼(29%)、半導体生産に必要なネオンなど貴ガス(noble gas)の最大の供給元だ。ロシアはEUにとっての供給元として、一次アルミニウム(9%)や鋼材半成品(42%)、世界的にはパラジウム(42%)、プラチナ(12%)、ロジウム(9%)、ニッケル(11%)などの重要な存在だ。今回、ロシアからの原材料供給の大部分が停止し、同国からの鉄鋼製品に頼っていた企業の中には2月末から納品ができなくなった企業もあるという。また、各社ともネオン、パラジウム、ニッケルの供給不足に備えているという。

 これまで我が世の春を謳歌してきた「グローバルエコノミー」は、本格的に窮地に陥った。JETROのレポートでは「短期的な影響」と書かれているが、現実の話としてドイツメーカーは今、クルマの製造が大幅に滞っている。武力衝突の先行きすらもいまだ見えず、ましてや物流が復活する経済制裁の解除までとなると、雲を掴(つか)むような話であり、影響は数年以上に及ぶおそれもある。

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