上をそそうに、下を律儀に
こちらの条文も、ビジネスパーソンに示唆を与えてくれるものでしょう。「目上に対するときには、自分を飾らずに接し、目下に対しては、実直に接するように」という意味の言葉です。この教えは、亭主が客に応対するときだけでなく、客同士での配慮としても必要でしょう。
今日風に言えば、相手の社会的な地位によって接し方を変えないということになります。例えば、上司と同席して取引先に赴いたとしましょう。上司にばかりへりくだり、あなたを見下すような取引先に好感を持てるでしょうか。一緒にお客さんとして招かれたならば、お互いの身分や地位はどうであれ、客同志、平等です。
こうお話しすると、茶道の知識がおありの方は「でも茶道では正客、末客と客を区別するじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、そうではないということをご説明しておきましょう。
茶道では、正客、末客という言い方があります。席に座る時に、一番上席に座る人が正客、末席に座る人が末客です。この区分は、あくまでも茶席という場における役割の違いです。
正客の役割は、客全体を代表して、亭主の趣向を聞いて引き出すことです。たとえその場の会話が弾んでいるように見えても、亭主と自分の二人だけが分かる話題で盛り上がるばかりで、他の客がついていけないのを放っておくようでは、正客としては減点ものです。分かっていなさそうな客がいたら、その人も一緒に楽しめるように配慮してこそ、「一座建立」が成り立つわけです。
会社でいえば、会議の場をイメージしてみてください。決定権のある上司(亭主)の意見だけが議論の材料になるようでは、新たなアイデアは生まれづらいでしょう。参加者の中での最上位者が「正客」のように振る舞い、委縮してしまいがちな部下の提案をすくいあげていくことで、議論が活性化します。
それでは末客の役割は何かというと、準備や片付けを受け持ちます。当日になっても「誰かがやらなければいけないけど、誰が担当するか決まっていないこと」があるようでは、その場で進行がもたついたり、気まずくなったりします。
会議でも、資料の準備役や進行役を担う人間が不可欠で、その場で「これは誰がやるのだ」と話し始めては時間の無駄です。だから、茶席では、予め末客も決めるのです。繰り返すようですが、正客には正客の、末客には末客の担うべき役割があるのです。
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