コロナ禍でも売上規模5倍に アナログとデジタル融合のiBuyer、すむたすの強さ

» 2022年05月16日 17時08分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 米国で流行っているビジネスを日本に持ってくる、いわゆるタイムマシン経営は、簡単そうに見えても実は難しい。そんな例の一つが不動産だ。

 米国では不動産業界のIT化が進み、ユニコーン(10億ドル企業)のIT企業が続々誕生した。これらの企業はGAFAになぞらえて「ZORC」とも呼ばれる。代表格であるジロー、オープンドア、レッドフィン、コンパスの4社だ。

 こうした各社はiBuyerという事業モデルに進出しつばぜり合いをしている。iBuyerとは、アルゴリズムを活用して不動産の価格を査定し、直接買い取るというもの。その後、リフォームを行い売却する。

iBuyerのモデル。迅速な買い取りによる利便性を売却主に提供し、データとアルゴリズムで買取価格と売却価格の差額を取っていくビジネスモデル

 米国で流行のモデルなら、日本で取り組むスタートアップがたくさん出てきてもおかしくない。ところが、現在国内でほぼ唯一iBuyerモデルで事業を展開しているのが、すむたすだ。

国内唯一のiBuyer専業 すむたす

 同社は5月16日、シリーズBドルラウンドで12億円を調達。累計調達額は20億円に達した。背景には、コロナ禍に入ってからの事業好調がある。2021年は、年間の販売件数が対前年比で5.4倍に増加するなど絶好調だ。

共同創業者の伊藤友也氏(左)、共同創業者の角高広社長(右)

 コロナ禍においては不動産価格の大きな上昇が見られたが、それは家を売ろうと考える人が減少したためだ。家の売買では、内見者を自宅に入れるため接触が嫌われた。また、売却のタイミングは進学、転勤、介護、独立が多いが、コロナでこれらがいったん止まったことも大きい。

 「コロナ直後はマーケット供給量が3割減った。仕入れが一番難しく、仕入れてしまえば早期に売れる状況だった」とすむたすの角高広社長は話す。

 各社が不動産の仕入れに苦心する中、すむたすは「唯一、オンラインでコミットした買取価格を出している」(角氏)ことを強みに伸ばした。以前は、士業や駅前の不動産屋を介した法人チャネルの仕入れも強化したが、直近は個人からの直接買い取りが95%にのぼる。

 個人からの買い取りにおいては、Webマーケティングのノウハウが重要だ。すむたすは、21年9月にグーグルが行うスタートアップ支援プログラム「Google for Startups Growth Academy 2021」に選出され、支援を受けたことも大きい。

 また買取価格算出のアルゴリズム精度が上がったことも強みだ。AIと人間の役割分担を見直すことで、算出額と実際の販売額のばらつき(ボラティリティ)が小さくなったという。「ボラティリティが5%の場合は5%のマージンを取っていたが、2%の場合ならマージンは2%にできる」(角氏)ことから、より高い買取価格を提示できるようになった。

 他社がiBuyer領域に参入してこないのは、アナログとデジタルの融合にあると角氏は見る。「普通のスタートアップは、デジタルマーケティングやプロダクト作りはできても、アナログ的要素が弱い」と角氏。建物の目利きやリフォーム時の施工力、さらに数十億円単位にのぼる銀行融資。こうしたアナログ領域の専門性を持ち合わせるスタートアップはほとんどいないため、参入が少ないのではないかという。

 当初東京都のみを対象としてていたサービス地域も、直近1年で一都三県に拡大した。今後は、大坂、名古屋、福岡にも進出していく計画だ。28年までに、不動産の直接売買において国内ナンバー1プラットフォームになることを目指すとしている。

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