日本人の多くは、これらの経済的な問題を、世界広しといえども日本だけが持っている特殊な問題だと考えている。しかし、消費税が日本よりもバカ高い国や、株主資本主義が強い国なども山ほどある。財政出動していないというが、日本は1990年代に入ってから1000兆円以上の負債を増やしている。それだけすさまじいカネをバラまいても、日本人の賃金がほとんど上がっていない。この事実からも、これが「犯人」でないのは明らかだ。
拙稿『会社の倒産は減っているのに、なぜ労働者は“幸せ”そうに見えないのか』の中で詳しく解説しているが、日本は「企業保護」があまりに強すぎて、諸外国の中でもダントツに廃業が少ない。世界トップレベルで経営者に甘い国なのだ。
欧米をみると、起業した会社は5年で半分が倒産する。しかし、日本では18.3%しか潰れない。経営者が有能だからではなく、補助金や税制面で「保護」されているからだ。日本以上に失業者の多い国や、経済がうまくいっていない国もある。
そのように経済的にはさまざまな事情があっても、ほとんどの国では「賃上げ」をしているのだ。経営者もそれを受け入れて、価格に反映させていく。賃上げにともなってサービスや商品の「価値」をあげていくのだ。そして、それができない経営者は市場から去っていく。そういう「新陳代謝」が経済を成長させる。
しかし、日本ではそれがない。物価が上昇しても、あれが悪い、これがいかんと言い訳ばかりをしてまったく賃金が上がらない。ということは、実は問題は経済ではなく、「賃上げ」という行為そのものをはばんでいる日本特有の社会システムに問題があると考えるべきではないのか。
そこでよく労働問題の専門家などが指摘するのが、経済の問題うんぬん以前に、日本にはそもそも「賃上げ」をする基本的なシステムが整備されていないのではという点だ。
もともと日本社会では「労働組合」にアレルギーを持つ人が多い。「左翼」「反政府デモ」などのイメージがあまりに強烈で、賃上げを望むだけの一般人が気軽に加入できないムードもある。そこに加えて、中小零細企業で働く人たちの賃上げをサポートする機能が「欠落」しているという指摘も多い。
その代表が「従業員代表制」である。
これはそれぞれの企業ごと、民主的な手続きで選ばれた従業員代表委員が、経営者側と労働条件をはじめとするさまざまなテーマを協議する制度のことで、ドイツなどの欧州諸国や韓国では法制化されている。
大企業の場合、労働組合がつくられて労使交渉が行われることもあるが、中小企業の場合は労組など存在しないケースも多い。組合は労働者の権利だと言ったところで、そんな活動をすれば、社員の少ない会社などの場合は、経営者と人間関係も悪くなるからだ。
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