通信減収の携帯3社、法人と金融で増益 どうなる楽天?房野麻子の「モバイルチェック」(2/2 ページ)

» 2022年05月18日 07時00分 公開
[房野麻子ITmedia]
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楽天は今期が赤字のボトム

 通信の顧客をコマースや金融などのライフスタイル事業に送客し、さらにその魅力で通信の顧客を呼び込む、あるいは既存ユーザーを手放さないという循環を作っている3社。それに対して、楽天は楽天市場や楽天カードといったライフスタイル事業をベースに通信事業へ参入した。事業展開の方向が3社とは逆向きだ。ただし、グループシナジーを最大化し、経済圏内で循環させたいという狙いは4社共通となる。

 その楽天グループは12月を期末とする決算サイクルのため、他3社とは異なり22年12月期第1四半期の業績を5月13日に発表した。売上高は前年同期比11.7%増の4371億円、営業損益は1126億円のマイナスだ。モバイル事業の基地局などの先行投資が影響し、依然として赤字が続いている。ただ、楽天の場合は、決算発表よりも同日午前中に行った新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」の方に注目が集まった(記事参照)。

楽天モバイルの新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」では「1GBまで0円」が廃止された

 楽天モバイルは携帯電話事業に本格参入してまだ2年。他3社とは異なり通信事業の赤字が続く。そのモバイルのマイナスを挽回するために新料金プランを発表した。従来は1Gバイトまで0円、3Gバイトまで1078円、3G〜20Gバイトまでは2178円、20Gバイトを超過した場合は3278円だったが、新プランは0円が廃止されて、7月1日から自動適用されることで物議をかもしている。

 新プラン導入にはさまざまな理由が挙げられた。ただ、やはり今後もエリア拡大など投資が必要となれば、0円でやっていくのは難しいというのが本音のようだ。

 今回の改定で、0円で運用してきたユーザーは一部離れるだろうが、元々0円だったユーザーが離れても楽天の収益に大きな影響はない。単純に数を増やすよりも、楽天のサービスや、サービスを利用することで付与率が上がる楽天ポイントを魅力と感じてくれる人が残り、通信料を支払ってくれて、楽天のサービスも使ってくれるという優良顧客獲得を優先する方針に転換したようだ。

 自社回線エリアの拡大によって、KDDIからのローミングエリアは着実に縮小しており、そのコストが削減されること、0円プランの停止などで、赤字は「今期がボトム」。今後は回復傾向になるとしている。海外の通信事業者向けに通信インフラを提供する楽天シンフォニーの収益は、今期の第4四半期(10-12月期)くらいから反映されてくるという。今期が赤字のボトムというのは間違いなさそうだ。

赤字は今期がピーク。課金ユーザーの増加、ローミングコストの削減などで第2四半期以降は回復傾向へ

 また自社回線が広がったことで、安価な高速通信が実現してユーザー体験が改善されることから、楽天モバイルへの申込数が加速しているという。ユーザー数の伸びの速さを、楽天グループの三木谷浩史社長は楽天カード会員数の伸びと比較している。モバイルの契約数は楽天カードの会員数より3倍近いスピードで500万に達しており、「(楽天モバイルの契約は)このカーブがキープできれば、大幅に早く2000万に到達できる」とした。

モバイルの契約者数の伸びと楽天カードの会員獲得スピードを比較している

 しかし、会費無料なら分割払いなどをしない限り費用がかからないクレジットカードの会員数と、基本的に毎月課金される携帯電話の契約数を比較することには違和感もある。

 今回の料金改定で、楽天モバイルは、データ量無制限で使えるものの、小容量、中容量の料金は他の格安スマホと同レベルになってしまった。料金はより安いMVNOが存在し、エリアの充実度は大手のサブブランドであるY!mobileやUQ mobileに及ばない。楽天ポイントは確かに魅力的だが、ソフトバンク、Y!mobileユーザーが優遇されるPayPayも劣らず魅力的だ。そして携帯電話はインフラなだけに、やはりつながることが重要。楽天モバイルの現在のエリアカバレッジは97.2%で、年末までに99%以上を達成予定としているが、さらに他3社が注力する5Gエリアの拡大も急がれる。

筆者プロフィール:房野麻子

大学卒業後、新卒で某百貨店に就職。その後、出版社に転職。男性向けモノ情報誌、携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年にフリーランスライターとして独立。モバイル業界を中心に取材し、『ITmedia Mobile』などのWeb媒体や雑誌で執筆活動を行っている。最近は『ITmedia ビジネスオンライン』にて人事・総務系ジャンルにもチャレンジしている。


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