では、なぜここにきて相次いで老舗和菓子店が廃業しているのだろうか。
ネットやSNSで盛んに言われているのが、「コロナが悪い」と「スーパーやコンビニが悪い」という2つだ。長引くコロナ禍で手土産をもっていく機会が減ってしまったことに加えて、スーパーやコンビニで、団子やまんじゅうなどが安く売っているせいで、「街の和菓子店」の客が奪われているというのだ。
ただ、この説には大きな矛盾がある。同じくスーパーやコンビニで安いケーキがたくさん売られて、苦境に追いやられていた洋菓子は、コロナ禍によって息を吹き返しているからだ。
帝国データバンクによれば、21年は洋菓子店の倒産が急減して過去10年で最も少ない水準になった。和菓子店同様に手土産の消費は減ったが、ステイホームで「どうせ食べるなら少し高くてもおいしいケーキがいいよね」というニーズが高まり、「街の洋菓子店」の価値が見直されたという。これと同じ構造で、「街の和菓子店」の中にはコロナで復調した店もあるはずなのだ。
長く人々に愛された老舗が潰れた、という話を聞くと、日本人はどうしても社会情勢や巨大小売企業という「分かりやすい犯人」のせいにしたくなるが、このタイミングで廃業が相次いでいることの説明にはならないのだ。
そこで次にでてくるのが、「和菓子離れ」という話である。
日本人の食がすっかり西洋化して、「甘いモノ」といえば、ケーキだ、プリンだ、パンケーキだということになってしまったせいで、和菓子店が苦境に追いやられており、次々とこのタイミングでギブアップをしているというのだ。
ただ、この説もかなり眉唾である。「和菓子離れ」なる現象は、40年以上前から延々と繰り返し指摘されてきた、手垢つきまくりの話だからだ。
例えば、1983年5月には全国豆類振興会が銀座松屋で、「ケーキなど洋菓子に目がないギャルの関心をひく」(読売新聞 1983年5月11日)ことを目的とした和菓子のPRイベントを開催した。「ヤング層の和菓子離れは定着している」(同上)という現状への危機感からである。
つまり、「和菓子離れ」は40年以上前からずっと続いている問題であって、コロナ禍で急に和菓子から人々の心が離れたというものでもないのだ。今このタイミングで老舗がバタバタと倒れている理由とするには、さすがに無理がある。
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