これまで見てきたように、小さな会社のままでは資本的にもマンパワー的にも新しい価値をつくりだすことが難しい。というわけで、事業拡大やM&Aで会社の規模を大きくすることが重要なのだが、なぜか日本の中小企業経営者はそれに反対をする人が多い。
小さいままだと国から手厚く保護されるなどの「大人の事情」もあるが、経営者の美学的なところで言えば、「日本の中小企業は世界一の技術なので、小さいままでも十分戦える」という「おごり」が強いことがある。
これは和菓子店も同じだ。先ほど40年前から「和菓子離れ」の危機がささやかれていたことを紹介したが、もっと以前からこのままでは欧米の洋菓子に負けてしまう危機感があった。そこで1960年代から盛んに海外進出を試みたが、結果はいまいちだった。一部の親日家は絶賛したが、フランスのシュークリームなどのように食文化として輸出できるレベルではなかった。
これは欧米では豆は主食なので、「あんこ」などがそれほどササらなかったと説明されているが、一番大きいのは過度な「技術信仰」ではないかと思う。『読売新聞』(1961年10月5日)には当時、ハワイで大々的なPRイベントを催した和菓子店のこんな自信満々の声が紹介されている。
「日本独特の”芸術菓子”が人気を呼ぶだろう」
「全然し好が合わないという食品は、国が違っても3割くらい。味つけさえ少しくふうすれば売れる。現に、ルーズベルト夫人など大のヨウカン・ファンだ」
日本人特有の高い技術力が世界に認められないわけがない。ここさえしっかりと抑えておけばビジネスはうまくいく――。そんな「技術至上主義」ともいう思い込みが、日本の自動車、家電、半導体、携帯電話、アニメなどさまざまな分野の「衰退」を招いている側面があることは、もはや異論がないのではないか。
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