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「最近の若者はすぐ辞める」と怒る前に知るべき、「仕事が合わない」と言い出す新人の真実河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)

» 2022年05月27日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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「仕事が合わない」を解消する、上司のサポート

 前述の通り、新卒入社をした企業を退職した理由のトップは「仕事が自分に合わない」で、40.1%です。ただし、「入社後の新人研修や先輩・上司からの指導やアドバイスがあった」人の場合、「仕事が合わない」を挙げた人の割合は、36.1%に減少。「指導やアドバイスがなかった」人(45.5%)の場合を10ポイント近く下回ることが分かりました。

 実は、私が03年に新卒社会人を9カ月間追跡した調査でも、「上司や先輩からの指導やアドバイス」がもたらす情報の有効性は検証されています。

 この調査は、「情報ネットワーク (=仕事に役立つ情報を与えてくれる人)」と、「友好ネットワーク(=職場を離れても付き合いがある人)」が新卒社会人のメンタルヘルスに、どのように影響するかを目的に、入社3カ月前から入社半年後まで縦断的に追跡。その結果、入社してすぐに「情報ネットワーク」を構築できた人は、3カ月後のメンタルヘルスが良好で、半年後のワークモチベーションも高いことが分かりました。

 仕事に役立つ情報をくれる先輩や上司の存在により、会社組織への適応に成功していたのです。

 どんな仕事であれ、外から抱くイメージと実際の仕事にはギャップがあります。これは「リアリティー・ショック」と呼ばれ、ほとんどの新入社員が最初にぶつかる壁です。ギャップには「仕事の内容だけでなく、職場の人間関係」も含まれています。私がこれまでに行った新人社員とのインタビューや調査研究では、ほとんどが上司に関するものでした。

 上司が「お前は言われたことだけやっておけばいい」と敬意を示してくれなかった経験や、「自分で仕事を作れ」と突き放された経験が、ギャップを拡大させます。「いつも監視されているような気がして嫌だった」とプレッシャーを感じるケースや、「上司や先輩とコミュニケーションがほとんどなく、1人でPCに向かう時間が多くて不安になった」と打ち明ける、新人もいました。

最初に出会う「上司」の重要性

 いずれにせよ、連合の調査結果や私が実施した追跡調査結果が示唆するのは、最初に出会う「上司」の重要性です。

 「この会社で〇〇がしたい!」と期待に胸を膨らませて入社した若者でも、上司のサポートがなければ、「なんか違う」と思う。反対に、丁寧にアドバイスや役立つ情報をくれる上司と出会えれば、「へ〜、これ面白い!」と軽やかな気持ちで仕事に向き合うこともできる。

 自分らしさとは、自分の中だけにあるのではありません。「半径3メートルの世界」である周囲の人々との関係性の中にこそ存在するのです。

 大人たちは、「今どきの若者は〜〜」と非難する前に、まずは自分が動いてください。若者が、「この仕事、面白い!」と目を輝かせるように。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。


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