「ふさわしくない」は的外れ 100円ショップやワークマンの「銀座」進出が歴史的必然なワケ世界トップクラスの立地(1/4 ページ)

» 2022年05月30日 05時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]

 小売り業において立地は最も重要な要素で、立地商売ともいわれます。日本だけでなく、世界の中でも最高かつ憧れの立地の代表格は、東京・銀座でしょう。「いつかは銀座」と夢見る企業も多いです。

 その銀座に、最近は“銀座らしくない”企業が新規出店するようになっています。銀座に何が起きているのか。そして、銀座にこだわる理由は何なのか。小売り・サービス業のコンサルティングを30年間続けてきたムガマエ株式会社代表の岩崎剛幸が分析していきます。

客層や商圏から銀座を分析する

“銀座らしくない”店舗が続々オープン

 ワークマンは4月末に「#ワークマン女子」の旗艦店を銀座にオープンしました。ラグジュアリーブランドが多数入る「GINZA SIX」の向かい側、商業施設「イグジットメルサ」5階がその出店立地です。売り場面積は約92坪。カジュアルウェアやテント用品などのアウトドア系テイストの強い業態である#ワークマン女子の出店ということを差し引いても、「あのワークマンが銀座に?」と私は驚きました。

 #ワークマン女子と「WORKMAN Plus」の女性向け業態は、同社の中でも非常に業績が良いです。2023年3月期には品ぞろえと生産量を拡大し、女性専用商品の売上高を前期比160%の140億円に持っていく予定です。勢いのあるワークマンだけに、銀座店は年商5億〜6億円目標と設定。1店舗当たり平均1億2000万円の売り上げという同社の中で、銀座店が一番店になるのは間違いないでしょう。

 実際に平日の昼間にどの程度の利用客がいるのか視察に行きましたが、想像以上の数に驚きました。レジにも行列ができていて、客層は20〜70代ぐらいまでとかなり幅広い印象でした。デベロッパーとしてみたら、ビルの5階という上層階にワークマンが入ったことで回遊性が高まり、シャワー効果(上からシャワーを降らすように顧客が降りてくるような仕掛け)の役割もきちんと果たしていました。

 これほど集客してくれるなら、家賃をある程度低く設定しても、十分に元はとれるでしょう。

「#ワークマン女子 銀座イクジットメルサ店」

 銀座店の家賃比率は売り上げ比で4%程度ということですから、およそ年間2000万〜2400万円でしょう。月坪換算で2万1000円なので、銀座の坪当たり平均賃料よりは低い賃料で出店していると推測されます。それでもこれだけの集客ですので、お互いにWin-Winの関係となっているといえます。

 近隣にはユニクロとジーユーの旗艦店もあります。周辺はカジュアルSPA(製造小売り)店舗がひしめいているため、カジュアル商品の買い回りがしやすいエリアが銀座に誕生したことになります。

 しかし、驚くのはこれだけでありませんでした。100円ショップのダイソーやセリア、300円ショップの3coins(スリーコインズ)も銀座に相次いで出店しています。

 先鞭をつけたのは100円ショップの「ワッツ」。今から1年以上前となる21年3月、商業施設「メルサ銀座2丁目店」にオープンしました(同施設は22年8月に閉館予定)。

 大創産業は4月中旬、商業施設「マロニエゲート銀座2」に、ダイソーのグローバル旗艦店、300円ショップ業態「スタンダードプロダクツ バイ ダイソー」、大人の女性向けかわいい雑貨専門店「スリーピー」を同時出店しました。同施設には、ユニクロ旗艦店「UNIQLO TOKYO」が核テナントとして入っています。また、ダイソーが出店したフロアは、ニトリの店舗があった場所です。

 同社がワンフロアで3業態を展開するのは初めてです。しかも、銀座エリアにダイソーが出店するのも今回が初です。ダイソー316坪、スタンダードプロダクツ130坪、スリーピー51坪。トータルで約500坪という規模です。ここを拠点にダイソーの新たなブランドイメージをつくりたいという狙いがあります。

 ダイソーフロアには、昼間から本当に多くの利用客が詰めかけています。

ダイソーの新業態 スリーピーにもたくさんの女性客が押し寄せる

 4月下旬には、パルグループの展開する「3COINS+plus(スリーコインズ プラス)」が西銀座デパートに出店しました。同ブランドはスリーコインズよりも売り場面積が大きく、食料品や軽家具なども品ぞろえする業態で、急速に拡大しているところです。銀座店は売り場面積が140坪と関東最大級の店舗です。以前にグループ入りした雑貨ショップ「ASOKO」の商品も品ぞろえしていました。同店にも平日の昼間からたくさんの女性客が入っていました。西銀座デパートの2階で一番奥という立地ながら、完全に集客の要になっています。

 #ワークマン女子と同じイグジットメルサの5階には、セリアが100坪の売り場面積で出店しています。セリアはあくまでも100円の品ぞろえにこだわっています。利用客は#ワークマン女子とセリアを行ったり来たりして買い物をしていました。

 「100円ショップで銀座の家賃を払えるのか?」と疑問に思う人もいるでしょう。

 しかし、100円ショップの稼ぐ力を知れば、それは杞憂(きゆう)だと分かります。

 例えば、セリアの月間売り上げは平均で1000万円(21年度実績)ほどです。銀座であれば、2倍の2000万円ほどだと考えられます。同社の粗利率は43%ですから、月間粗利で860万円です。仮に、#ワークマン女子と同程度の坪家賃とすると、100坪で217万円。人件費とその他経費で400万円として、月間の販管費が617万円。月間の営業利益は243万円です。年間2900万円以上の営業利益をあげられることになります。実は、100円ショップも銀座の中でもきちんと立地を選べば、ワークマン同様、十分に利益がでる計算になるのです。

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