「ふさわしくない」は的外れ 100円ショップやワークマンの「銀座」進出が歴史的必然なワケ世界トップクラスの立地(3/4 ページ)

» 2022年05月30日 05時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]

「銀座のカジュアル化」が始まったのは2000年から

 銀座は05年ごろまでは百貨店と老舗専門店の街でした。しかし、百貨店の売り上げが減少するのとあわせるかのように、08年ごろからSPA型のファッションブランドやセレクトショップが続々と出店し始めました。銀座には今や世界中のSPAブランドがほぼそろっています。これらのSPAブランドによって、銀座には20代前半の女性客が非常に増えました。

 主要店舗の銀座への出店状況をまとめてみると、世の中に大きな変化が起こる時、それまで銀座には存在しなかった新たな企業や新業態が進出していることが分かります。もちろん、不景気でテナントが退店して、好条件で出店できた場合もあるでしょう。しかし、世の中の価値観の変化は下克上が起きやすいタイミングでもあるのです。08年におけるH&M銀座店の出店は、米国発の金融危機の時でした。ルミネ有楽町は東日本大震災の年。東急プラザ銀座はトランプ大統領が誕生したタイミングでした。そして、新型コロナウイルスとロシアによるウクライナ侵攻が重なる22年に、ワークマンと100円ショップが銀座に進出しました。銀座は世の中の変化にあわせて対応していく街なのです。こうした流れは、銀座の立地特性からいうと必然です。2つの視点から整理します。

銀座は340万人以上の超広域商圏

 銀座を支える主要な商圏エリアは中央区、千代田区、港区、文京区、新宿区、渋谷区です。鉄道では地下鉄銀座線、丸の内線、日比谷線、都営地下鉄浅草線が利用できます。さらに、JRの有楽町駅や新橋駅なども近く、全ての駅の乗降客数をあわせると200万人を超えます。週末は足立区、台東区、大田区、品川区、世田谷区、神奈川、埼玉、千葉エリアからも集客できます。つまり、新宿、渋谷などと並んで340万人以上の商圏人口(日本最大規模)があるエリアです。地方からの来街者、海外からの観光客も本来ならば圧倒的に多く、まさに商圏は世界レベルのエリアです。だからこそ企業はこぞって銀座を目指したくなるのです。

女性客が集まりやすく、街のイメージがいいエリア

 銀座の顧客層は大きく2つから成り立っています。08年以降増加しているのは20代後半〜30代前半の女性客と、50〜70代の女性グループ。銀座のある百貨店における男女売り上げ比率は、女性7割、男性3割。圧倒的に女性が集まりやすいエリアというのが特徴です。また、01年と多少古いデータではありますが、東京都内の繁華街における消費者意識調査の結果を紹介します。同調査において、銀座はほとんどの項目で評価が高かったのです。特に、「流行性」「買い回りの楽しさ」「安全性」「街の賑わい」では抜群に支持されていました。これは、今も変わらない傾向でしょう。こうした特別なイメージこそが、小売り・サービス事業者が銀座を目指す理由になっています。

「大都市繁華街の消費者出向調査2001年」(東京都産業労働局)

 銀座に出店するとブランドイメージを上げられるという考えをもつ企業が多いのは、このような良い客質の商圏だからといえます。結果的にそこに存在する企業のブランドイメージも向上するのです。

 そもそも銀座は、ラグジュアリーブランドの集積地として世界にその名を轟かせてきました。世界中のラグジュアリーブランドのトップが、「世界中で一番出店したい場所」といっていたのを私は何度も聞きました。「銀座で売れれば世界で売れる」という世界のショーケースです。一時期は日本のデフレに嫌気がさして、中国や香港に移っていたラグジュアリーブランドも、15年からは改めて日本をアジアの拠点にし始めています。

 また、昔からの老舗テーラー、呉服屋、和菓子屋といった店舗もいまだに健在であり、東銀座の歌舞伎座が新しくなってからは、再び50代以上のミセス層、シニア層が街に戻り始めています。

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