必ずしも「日本のDXはダメダメ」ではない 日本人は何が得意なのか?IPA×ITmedia DX対談企画(第2回)(2/3 ページ)

» 2022年06月02日 07時00分 公開
[ITmedia]

内野 例えば、日本の基幹産業である製造業でいえば、おっしゃる通りビジネスプロセスがものすごく確立されていて、品質も高い。昨今は製品・サービス提供のスピードばかりではなく、品質も非常に重視されていますよね。

 そしてDXとは何かと立ち返って考えると、デジタルの力を前提にして、ビジネスプロセスを変え、ひいてはビジネスモデルを変えていくことです。カイゼンの文化も多くの企業に根付いている。暗黙知を形式知化するのが弱い傾向にあるなどの課題もあるにせよ、DXがうまく転がりだす芽のようなものは、多くの企業がもともと持っているんじゃないかという希望があります。

 そういえば、DX実践の一要素になっているアジャイル開発も、日本のトヨタ生産方式が源流だったりしますよね。いたずらに「DXって何をやればいいんだっけ」と定義を求めるよりも、自分たちが自然にやってきたこと、それこそ最初はカイゼンの積み重ねから始めるなど、デジタルの力を使うことでどう変わるのか、自由に考えると、DXのハードルが下がっていくんじゃないでしょうか。

 それはそうかもしません。一方で、いろいろな製造業の方に話を聞いていると、サプライチェーンをしっかり作っていらっしゃるので、その中でデジタルを使うために乗り越えるべきハードルもあります。

 下請けからみると、発注元ごとにシステムが異なる場合があります。これまではA社を中心としたサプライチェーンに入っていた会社が、新しくB社の発注も引き受けることになると、別のシステムを丸ごと導入しなければいけなくなる。コンピュータが2系統になってしまい、その間は全然つながっていない、というひどいケースもあります。

 私がコンピュータの世界で一番敵視している、アプリケーションとアプリケーションを人間がつなぐという切ない現象が起きるわけですね。

内野 先ほどの話のように、日本人は「プロセスをこう変えたら、もっとよくなる」ということを考えるのは得意な方なんじゃないかと思います。

 創意工夫はどの企業でもやっていらっしゃる。ただ、その創意工夫は、人が手を動かして対応するというのが常だったと思うんです。だからプロセスをこう変えたらよいというアイデアが出てきても、「運用でカバー」ではないですが、それを支えるシステムが追い付いていない例は多いですよね。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 例えば、人が手を動かすのをシステムに置き換えていくというと、必ずと言っていいほど、話題になるのがRPAです。私の周囲では人気がないのですが、私自身はRPAを全く否定するものではなくて、むしろ使えばよいと思っています。

 ただ、RPAはアプリケーションに依存するわけですよね。アプリケーションが更新されてしまうと、RPAも変えなくちゃいけないんだけど、RPAを構築した人が異動したり、メンテナンスされなくなっちゃたりすると、動かなくなってしまう。後任者を困らせてしまいます。システムがどのように相互に連携しているのかを、きちんと意識することが企業の中であんまりなされていません。

 本当はアプリケーションの方が相互に連携することを念頭に、開発、更新されていればいいんですが、アプリケーション間が連携していないからRPAの話になっているわけで、だからアプリケーション側がそんな配慮をしてくれるわけもない……と。

内野 そうですね。少し大きな話になってしまうんですが、「システム」とはもともと「ITシステム」のことではなくて「仕組み」のことですよね。だから、「うちの会社はどういう仕組みでビジネスを展開しているのだろう?」と全体を把握できていれば、そうしたRPAのブラックボックス化やシステム連携の問題も起こりにくいと思うんです。

 ところが、日本企業はセクショナリズムが強いので、プロセスがサイロ化しがちですよね。ITも個別最適になりやすい。先ほど日本企業はDXを実践できる芽のようなものがあるんじゃないかとは言いましたが、ビジネスプロセス全体と、それを支えるITシステム全体を見る視点が弱いため、業務もITも個別最適の集積になりがちですよね。

 だからおっしゃるように、RPAによる自動化やシステム連携も大変なことになりやすい。例えば、受注など社内の一本のビジネスプロセスでも、各部門が個別に使っている多数のアプリや人手でフローを回し、プロセスをつないできたからです。境さんがおっしゃるようにサプライチェーンという単位でも、各社独自システムのため連携に難儀するなど同じようなことが起きてきたと思います。

 この背景には、一社内については評価制度の問題もあるのではないかと思います。部門ごとに違うKPIがあったり、それぞれ違う尺度で評価されたりしてしまうので、周囲のことは考えられません、協力したくないという人も増えてしまう。部門最適のITシステムを標準化しようとして、IT部門がエンドユーザーの反発に遭うというのもよくある話です。

 こうした目標共有や利害関係調整は、社外取引先とのシステム連携や標準化においても必要ですよね。例えば自社の差別化領域ではないシステムを標準化・共通化することのメリットが見えれば、取引先とシステムを共有するような話も進みやすいはずです。そういう意味でも、経営層のリードが重要ではないでしょうか。

 そうなんです。経営層の理解が大事なんですよ。いろいろと批判はあるんだろうけれど、RPAを含め、現場の小さな改善は重視したいと思っているんですね。

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