当時の国会で、仕分け対象として議論されていたのは、後に2011年に「TOP500」で首位となる「京(けい)」で、その名の通りLINPACKで1秒に1京回以上の性能を目指した開発プロジェクトだった。ちなみに富岳は毎秒44京回超、富岳を凌駕(りょうが)したフロンティアは110京回を超える性能だ。
当時、この言葉だけが独り歩きし「2位にしかなれないなら意味がないから予算は出せない」という“足切り”の象徴のように捉えられていた。実際にこのプロジェクトは仕分け対象になり、予算は凍結。その後、復活して開発が続けられ、世界一を獲得することになるが、一度は足切りされてしまった。
しかし、富岳が圧倒的な性能で世界一になり、その後もトップクラスであり続けているのは「2位じゃダメなんでしょうか?」という言葉が、一つのヒント、ターニングポイントになっていることが、開発者たちの言葉から明らかになっている。
富岳が世界一になったのち、さまざまな形でその開発ストーリーが伝えられているが、もっとも印象的なことは「単純な演算速度競争ではなく、複雑な問題解決を図る応用演算の性能を高める」ことを念頭に、ソフトウェアの開発環境なども含めて“全体で性能を上げる”ことを目標に開発されたのが富岳ということだ。
言い換えると、京が「2位にしかなれないなら……」と一時的に事業仕分けで予算凍結されたことが、“単純な演算速度で世界一”を目標にするのではなく、社会問題の解決という本来の役割に徹するという開発コンセプトの変化を招いた。その結果、富岳の優れたアプリケーション性能につながったのだ。
例えば競技スポーツ。単純な筋力や反応速度などを鍛えたとしても、技術が求められる実際の競技で良い結果を得られるわけではない。筋力や反応速度は結果を求めるための要素ではあるが、技術を磨き、創意工夫で違いを出していかなければ、良い成績は残せないだろう。
技術を磨き、創意工夫して複雑なルールのもとに世界一に輝くアスリートは、結果的に筋力や反応速度、柔軟性など単純な評価指標でも優れているかもしれないが、それはあくまでも結果でしかない。
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